美しき共同とビジョンの精緻

流れるように言葉が入ってきます。英語の先生が学習素材にビートルズを採用することがある……そんな英語教育あるある談の存在にもうなずけます。

レノン・マッカートニーふたりのハーモニーが過熱しずぎず、かつ冷たくもならずに恒常的に響きの質感を豊かにします。ヴァースはユニゾンのダブル。コーラスは完全4度や完全5度など協和度の高い音程をふんだんに選び、バンドの肉体性を印象づけます。そこにデ・デン!とティンパニーの好アクセント。エンディングでは温めてきたかのように3度音程のハモリでフェードアウト。

品が漂う落ち着き感のあるピアノはポールの演奏だそうです。

浮遊感あるコード進行がシンプルかつ絶妙。1小節同じコードで引っ張ったあとに、1小節の中でポンポンとコードを変えたりと緩急のあるふるまいが癖になります。またそのコード選びにおいていかにもビートルズらしさを漂わせるのはⅦ♭コードといいますか、たとえばこの曲のトニック的役割をもつのがAのコードだとすれば長二度下のGのコードでしょう。地平ががくっと外れてしまったような一瞬の浮遊感、そこからの回帰に聴き心地のメリハリが生じます。

ソングライティングは表面上のふたり名義でなく、実際にジョン・ポール両者の考えた部分が共存しているようです。きわめて柔軟な発想が活かされているのにもかかわらず、最終的な方向を共に見据えている感じがするのが奇跡めいています。ビートルズ曲のなかでも傑作のひとつで間違いないでしょう。

Every Little Thing The Beatles 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのアルバム『Beatles For Sale』(1964)に収録。

The Beatles Every Little Thing(アルバム『Beatles For Sale』収録、2009 Remaster)を聴く

ふたりの声の輪郭、定位にちょっとだけ棲み分けを感じます。ジョンの声が真ん中寄り、ポールの声が左寄りに感じますがどうでしょうか。

ベーシックはおおむね左寄りです。でも一瞬スネアが真ん中から鳴ったか?なんて惑う瞬間がありましたが私の気のせいなのか、なんだかシンプルなのだけれどサウンドに魔性があるのです。

コーラスがかかったような音像のギターの音色が愛嬌に満ちています。右寄りに間奏のリードギターなど聞こえます。間奏おわり際の2拍3連が最高にキマっています。ティンパニも右寄りです。ピアノも右寄り。おおむねベーシックが左寄りで、楽曲の質感のアクセントを担うトラックが右にいる感じで左右の対比構造を感じます。

フェード・アウトで終わり、ふたりの愛の永続を暗喩するかのようです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>エヴリー・リトル・シングビートルズ・フォー・セール

ザ・ビートルズ | The Beatles ユニバーサルミュージックサイトへのリンク

『Every Little Thing』を収録したThe Beatlesのアルバム『Beatles For Sale』(1964)

参考書

ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫、2015年)