冬が来る前に 紙ふうせん 曲の名義、発表の概要

作詞:後藤悦治郎、作曲:浦野直。紙ふうせんのシングル(1977)、アルバム『再会 -新たなる旅立ち-』(1978)に収録。

紙ふうせん 冬が来る前にを聴く

ドラマティックなサウンド。曲面が転々と変わります。映像的。音楽で次々に場面が変わるのです。編曲は梅垣達志さん。

タッ、タタ、ット……と右の方に定位したラテンパーカスが情熱的です。

エレキギターは挑戦的。じくじくと私の心を掻き立てます。

ラテンパーカスがいるぶんドラムスの分割は大またぎに感じられます。

朗々とストリングスが歌います。

平山さんの歌唱がレーザービームのように刺さります。強烈なゆらぎをはなつビブラートです。後藤さんの歌唱がハーモニーパート。エモーショナルさを乗数で増幅させるお二人のボーカルワークです。

コロコロと変わる和声。リズムのキメ、低音位の変化毎にコードチェンジします。あぐらをかける安寧の地をじぶんの足で蹴散らし、厳しい道を己に強いるストイックな生き方を思わせます。オケも歌唱もキレキレ。質が高くてみっちりしています。音楽の筋力がたくましい。演奏スキルがピュアに高いのです。

リズム(ビート)、ハーモニー、旋律(メロディ)。音楽の基礎要素が綿密に練られ、重厚にドリップされています。

日が短くなり、夜が長く、空気が身を切るように鋭くなっていく……冬のきつい寒さを目前に、己の足跡を振り返る丘の高さはどれくらいなのか。自分を見つめるきっかけをくれる楽曲です。自分に厳しい人をみると、こちらの身も締まる思いがするのです。そういう人だからこそ、滲み出る優しさや頼もしさがあるでしょう。身につけたい人徳です。

秋の風が吹いて 街はコスモス色

あなたからの便り 風に聞くの

落葉つもる道は 夏の想い出道

今日もわたし一人 バスを待つの

冬が来る前に

もう一度あの人と めぐり逢いたい

『冬が来る前に』より、作詞:後藤悦治郎

町の景観がその季節めくことを、その季節に咲く花の名詞を冠した色で表現してしまいましょう。たとえば春なら、町はさくら色。夏なら、町はひまわり色といったところでしょうか。良いじゃないですか。年末なら、町は年越しそば色とか。なんでも色になるのです。

記憶の一つひとつが落ち葉によって比喩されます。水分を失って、からからになってしまう。記憶にも鮮度があるのです……

いえ、鮮度があるのはむしろ感情でしょう。

からからに乾くことでそれ特有の味わいを帯びることもあります。夏のその日の夜に思い出す日中のかがやかしい情景が初々しい若葉であるなら、夏を経て距離のあるところから眺めたといの思い出や記憶の色は枯葉色だというわけです。もう一度あの人とめぐり逢いたい……冬が来る前に。美しい思い出や、鮮度や限りのある感情のことをいっているのかもしれません。だからこそ、あれもこれも美しいのです。モナリザの絵を眼球から2センチくらいの距離で鑑賞したい人なんていないですよね。触れられない程度の距離をもつから美しく見えるものもある。ひねくた論理でしょうか。

青沼詩郎

参考Wikipedia>冬が来る前に

参考歌詞サイト 歌ネット>冬が来る前に

紙ふうせん 公式サイトへのリンク

『冬が来る前に』を収録した紙ふうせんのアルバム『再会 -新たなる旅立ち-』(1978)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『冬が来る前に(紙ふうせんの曲) ギター弾き語りとハーモニカ』)