ガール……(スーッ)。
Girl The Beatles 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのアルバム『Rubber Soul』(1965)に収録。
The Beatles Girl(2009 Remaster)を聴く
すごいヘンタイっぽいのに品があります。憂いているようなセンチな感じもあります。複雑な心の機微と、あっけらかんとしたスケベ心の重ね合わせといいますか……ビートルズ曲にはたびたびこうした品がある見た目、端正な音楽の美観の向こうに隠された、あるいは隠されてなんかいやしない透明な風通しの良さの同居を思わせます。ふざけているのか真面目なのか分からない、態度に多面性があるのです。押したら押された通りにゆらめく。そもそも触れることすらできずに通り抜けてしまう。幽霊なの?
真面目なことを言っているのか、下品なことの比喩をさも正論のように堂々と言っているのか、どっちともとれるのです。これ自体がジョークセンスといいますか、ウィットですね。厚いツラの皮、というのはタフに生きるためのスキルです。
tit tit……というバックグラウンドボーカルは「乳首」を意味する語句だといいます。ふざけてますね君達。いえ、乳首を歌ったからといってふざけていると決めつけられることもない。乳首は一般的な名詞です。あるいは英語でtitといった場合はあんまり品がない感じの単語なのかどうか。ネイティブじゃないのでニュアンスの機微が私にはわかりません。「tit」と語句が短いので口語的な語句なんじゃないかと想像すると、日本語でいう「おちんちん」とか「うんち」みたいな、ちょっと幼児じみた語句なのかもしれませんしどうなのでしょう。
ツッツタッツ、ツッツタッツ……とハネたリズムなのですけれど、この「tit」コーラスに4拍子を均等に2分割した偶数分割系のグルーヴを感じます。でも演奏、なんならジョンのリードボーカルはやっぱり3分割系でハネている。ここにも二重性、重ね合わせを見出します。ハネた演奏と歌唱がシリアス・フェイス。2分割がシリー・フェイス。真面目とおふざけの重ね合わせです。
リードボーカルとバックグラウンドボーカルの類が右側にがっつり振ってあって、左に楽器の演奏が固まっています。このまま最後までいくのか?と思うと、リードギターの12弦のアコースティックが右側にあらわれます。
バシっ!とドラムのノリが重い。限界まで後ろに引っ張ったようなグルーヴです。ロッドなどの類で叩いているのか、サウンド自体は軽やかでアコースティックな響きを尊重し楽曲のキャラクターにコミットしています。左側にいるアコースティックギターも12弦っぽいです。
複弦のギターも、本命の音程と飾り(複弦)の音程(オクターブ違い、もしくは意図せずともわずかにズレた同度の音程)が同時に鳴る「重ね合わせ」の楽器です。
Bm調ですが、Girl……と嘆くところはDメージャーです。平行の長調と短調がスイッチする。これも広義の重ね合わせかもしれません。平行調同士は調合がおなじ(シャープやフラットの数がおなじ)なので、同じ時間軸上で相互が癒着した趣があります。短調で曲がはじまったけれど、その調にいつづけることにがまんしきれずに平行長調に浮気する大衆歌は非常に多いです。
少女(Girl)はいつかGirl以上の大人の女性になってしまう。「以上」なのか、超越なのか。心のなかには幼年のGirlが大人の女性のなかに棲みつづけるでしょう。重ね合わせです。
スー、ハー。ため息が出ますね。目の前にいるあなたの少女性、「Girl」を吸入している音でしょうか。ヘンタイなの? まじめなの? その両方か。
青沼詩郎
ビートルズ ユニバーサルミュージックジャパンサイトへのリンク
『Girl』を収録したThe Beatlesのアルバム『Rubber Soul』(1965)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Girl(The Beatlesの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)