その地域の地主さんに由来する共通の苗字を持つ人が地元にウヨウヨいる、ということがあったりなかったりしませんか。
南の島のハメハメハ大王 曲の名義、発表についての概要
作詞:伊藤アキラ、作曲:森田公一。水森亜土、トップギャランが歌い『みんなのうた』で放送され、水森亜土の両A面シングルとして『山口さんちのツトム君』とともに収録、発売されました(1976)。
南の島のハメハメハ大王を聴く
小鳩くるみ(配信アルバム『小鳩くるみベストコレクション アタックNO.1の歌~こどものうた』収録)
私が小鳩くるみさんの歌を知ったのは『ピンポンパン体操』でした。そちらのオリジナル歌手は別にいるので“ピンポンパン”は小鳩さんのオリジナルソングではないのですが、小鳩さんの確かな表現に深いうなずきを覚えました。こちら『南の島のハメハメハ大王』の歌唱においても、そのうなずきが重なる思いです。音程が正しいとか、声がしっかり語句の頭から尻まで質量よく出ているといったことをさも簡単に当たり前にして、その一節一節が醸すコミカルな味わいを凛々と表現していて「ハミ出さない端正な見本」としてでなく、「音楽を遺憾なく楽しむ手本」として参照したい・敬いたいパフォーマンスです。
カチカチと甲高いラテンパーカスはボンゴでしょうか。小口径のものであればこれくらい高いピッチが出るものかわかりませんが、とにかくおもちゃなんじゃないかと思うくらいに高いピッチの鼓膜が鳴るサウンドが印象的です。
スティールギターの音色が極楽そのもの。うっとりですね。これ以上ありません。
歌詞
南の島の大王は その名も偉大なハメハメハ ロマンチックな王様で 風のすべてが彼の歌 星のすべてが彼の夢 ハメハメハ ハメハメハハメハメハメハメハ
『南の島のハメハメハ大王』より、作詞:伊藤アキラ
王様の偉大さを描く表現がエバーグリーンです。「風のすべてが彼の歌」「星のすべてが彼の夢」まるで宇宙の森羅万象を司っている神です。一国の王様どころじゃないですね。ロマンチストというか、まるで火の鳥(手塚治虫先生の漫画)のような超越した存在感です。
でもあくまで一個の人間なのです。魂は肉体とともにあるもの。その魂が夢を見、歌を歌うわけです。
コーラスの「ハメハメハ」はまさにお手本。たった二文字、「ハメ」の連ね方で、誰でも参加を許されるシンプルさを担保したうえで、独創的なフォルムを獲得した「コーラス」(サビ)。
「ハメ」の音韻が独特です。P(ピー)やB(ビー)などの破裂音を子音とするフレーズをうまいことフィーチャーして人気を獲得する流行歌と、たとえばS(エス)のようなさらっとした清音を子音としたフレーズを歌詞に含めて成功する流行歌を対比させる評論に出会ったことがあるのですが、「ハメ」ってどちらにも分類しかねる気がします。
「ハ」はちょっと清音っぽい感じもします。「h!(フッ!)」と一瞬空気を抜くというか瞬間的に押し出すような性質があるから清音っぽく感じるのでしょうか。
いっぽう「メ」は一度上下の唇をとじるようにふれさせて「mmm(ムー…)」という音を作ってから母音に移行する子音です。PやBの破裂音を思い出してください。あれも一瞬上下の唇を触れさせますよね。「m」は、若干の共通点が破裂音との間に見出せそうです。
そんな清音のような清音じゃないような「ハ」と、破裂音のようで破裂音ともちがうような「メ」を何度もつらねて「ハメハメハ…」と歌っていく。破裂音にも清音にも飽きた私も、これなら楽しく歌えそうです。
ハメハメハがもとにしているのはハワイに関係の深い名詞だろうと察せられます。ハワイ建国の初代王がカメハメハ。Wikipedia>カメハメハ1世によれば“「カ・メハメハ」はハワイ語で「孤独な人」、「静かな人」の意”だそうです。なるほど、深い思考やイマジネーションを秘めたロマンチストな人格に似合いそうな名前です。
同Wikipediaページによれば“ハメハメハ大王は、(作詞者の伊藤によると)カメハメハ大王の“友達”という設定になっている”といいます。また同Wikipediaページ冒頭付近には“ハワイ語は文字を持たない言語であった関係で、古い文献などではハメハメハ(Hamehameha)と表記される例も見られる”とあります。
カメハメハ大王の友人という設定がどうのはさておき、実在したハワイ王の名前や人物像をモデルにして1番の歌詞の細部を導いたのかなと想像します。
南の島の大王は 女王の名前もハメハメハ とてもやさしい奥さんで 朝日の後に起きてきて 夕日の前に寝てしまう ハメハメハ ハメハメハ ハメハメハメハメハ
『南の島のハメハメハ大王』より、作詞:伊藤アキラ
早寝早起きの人を言い表すときに、太陽の活動(人間の目線で見る運動)に沿っているかのように言うことがあるのではないでしょうか。日の出とともに起き、日の出とともに眠る生活ぶりです。女王はそれよりもさらに活動時間が短いようです。コアラは毎日十何時間も眠る?(18時間~20時間とも。参考サイト>Australian Koala Foundation)ような知識を聞いたことがあります。さすがにコアラよりは女王のほうが睡眠時間が短いかもしれません。良く寝れば精神が安定して他者に対してやさしくいられるという理屈を思いつきますが、寝すぎても果たして精神や体の健康にとってどうなのか。個人差がありますから、女王はそういう体質なのでしょう。
南の島の大王は 子どもの名前もハメハメハ 学校ぎらいの子どもらで 風がふいたら遅刻して 雨がふったらお休みで ハメハメハ ハメハメハ ハメハメハメハメハ
『南の島のハメハメハ大王』より、作詞:伊藤アキラ
3番ではハメハメハ大王の子供について言及され、子の名前までもハメハメハだといいます。ファミリーネームのようなものなのでしょうか。あるいは子に親と同じ名前がつくこともしばしばあって「●代目○○」というような「襲名制」があります。歌舞伎役者みたいですね。子と親のあいだでそれがなされるのはわかりますが、大王とその女王も同じ「ハメハメハ」であると。なんだかよくわかりません。やっぱりファミリーネームみたいなものなのでしょうか。
王の子も、大衆と同じ学校に行くのでしょうか。何かを強いられるのは嫌なもので、学校が好きという子のほうがむしろ少数派な気もします。あるいはもはやその是非や良し悪しなど考えもせず、ただ習慣的に通うのが大多数でしょうか。「義務教育」の意義について考えてしまいます。
風や雨を遅刻や欠席の理由にするのを認めるのは甘いとする価値観もあるかもしれませんが、ハワイの気候ですとだいぶ事情が違うのかもしれません。風や雨のときに出歩くのは命知らずの愚行……というくらいに、荒れ狂うとひどい気候の地域だとすれば、子の学校ぎらいとは別軸の事情です。
南の島に住む人は 誰でも名前がハメハメハ おぼえやすいがややこしい 会う人会う人ハメハメハ 誰でも誰でもハメハメハ ハメハメハ ハメハメハ ハメハメハメハメハ
『南の島のハメハメハ大王』より、作詞:伊藤アキラ
しまいには4番で南の島に住む人たちの多くに共通する名詞が「ハメハメハ」であると明かされます。日本の特定の地域でも、苗字が共通の「○○」さんばかり、ということはままあることです。ここでもそもそも「ハメハメハ」はファミリーネームにあたるのかという疑問がつきまといます。ジョン、マイケル、ベス(エリザベス)……同名の多いファーストネームももちろんあるでしょうが、ファーストネームが同じ人が特定の地域に集中することが果たしてあるものか。「名前」に対しての価値観がそもそも違うのかもしれません。絶対的に個を識別する手段として「名前」に頼っていない文化を想像します。先の項でハワイ語が「文字を持たない言語」だった旨を紹介しましたが、そのこととも無関係ではないと思えます。しかし、「音声」でお互いを識別しあうにしても、「書き」に頼れないぶんなおさら名前に違いがある方が利点が多い気がします。
作詞の便宜としては、「ハメハメハ」とサビで連呼する名前の部分がサビ毎に変わってしまってはデザインが不統一になってしまいます。みんながみんな「ハメハメハ」にあてはまる必要があって、その整合性が回を増すごとにサビのパワーを増大させていくのです。いつもサビが「ハメハメハ~」であれば、初めてこの曲を聴いた人でも1、2番のサビが同じなのを受けて3番にはサビで歌の輪に加われて、4番ではサビでリードボーカルを取れるくらいになれそうです。
上記サイトなど見るに、ハワイの人は言葉や名詞、人名の価値を大変尊重しているように思えます。誰もかれもが「ハメハメハ」と、同じ名前を持つ人ばかりである……という『南の島のハメハメハ』の歌詞が描く様子は、あくまでコミカルな脚色によってメロディやノリを印象付けるもので、楽曲の存在自体がしゃれっ気があって無垢で無罪(イノセント)なもの、あくまで楽しむための大衆歌であることを使命として尊重した結果だと思わせます。あるいは、作者の方はハワイへの深淵な理解や知識があってこそこれが書けたのかもわかりませんが……
「カ(Ka)」は英語のtheのようなものだといいますから「メハメハ」が孤独な人・静かな人といった具合で、点をうつなら「カ・メハメハ」。じゃあアタマの「カ」がすげ替えられた「ハ・メハメハ」の「ハ(Ha)」はなんだ? となると、息・呼吸、命、魂といったニュアンスがあるそうな。孤独な魂とか、静かな呼吸とかいった意訳を思いつくのですが、どうか。なんだか詩的な名詞にも思えます。「ハメハメハ」……と、音声のコミカルな印象とは振れ幅があります。
あなたもぜひ、ハワイの海や風の音に心の耳を澄まして歌を書かれたら良い。
青沼詩郎
『南の島のハメハメハ大王』を収録した小鳩くるみのアルバム『小鳩くるみベストコレクション アタックNO.1の歌~こどものうた』を含んだ『小鳩くるみ ベストコレクション』(2012)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『南の島のハメハメハ大王 ウクレレ弾き語り』)