友達のあなたへ寄せる好意

10代にも満たない、8〜9歳くらいの子でもありえるのではないかと思うくらいのお誕生日会の情景・設定描写です。

主人公の感受性の豊かさがうかがえるメロの情景描写。“内緒のまま好きなあたなの誕生日”と歌い始め、サビの“Happy birthday to my friend 歌う時 目があって 私だけ そっと ささやく I love you”と、友達関係が現状のあなたへ寄せる本心は“友好”以上の“好意”であることが入念に描かれます。

“なぜ生まれてきたの? さわやかな季節に 私と逢うために… だったらうれしいナ”と、「人はなぜ生まれてくるのか」という哲学的な問いに対して至極私的で率直な思慕の見地から希望を見出す青々とした感性がまぶしいです。続くライン“トランプ配る時 ふとふれた指先 ジュースをこぼしたの ハートがふるえて”という、お誕生日会でトランプをやるといういかにもロウ・ティーン未満じみた状況設定・描写に胸がキュンとしてこちらのハートまで震えてしまいます。「トランプ」とのモチーフ(小道具)を登場させておいて「ハート」と続ける洒落た感覚もつくづく見習いたいものです(トランプの4つの柄のひとつに「ハート」があります)。

世界観がロウ・ティーン世代じみていますが、大学生くらいの友達同士の「誕生日の宅飲み」でも十分通用する状況設定かもしれません。勤労世代とかシニア世代になってくるとどうでしょうか、ちと一般的な設定としては厳しい気もしますがその機会の全否定には決してなりませんし、すべての勤労世代やシニア世代はロウ・ティーンを経験・経由しているわけですから大人がみてもこの歌に共感したりキュンとしたりできるわけです。むしろ大人のほうがキュンとするのではないでしょうか。ロウ・ティーンの当事者(現在進行形でロウ・ティーン)でしたら、こうした感覚が自己と近く重なりすぎて客観視しづらいかもしれません。

本曲はアニメ『キテレツ大百科』のエンディング曲です。作詞の森雪之丞さんは同アニメのオープニング曲『お料理行進曲』の作詞も担当されており、YUKAさんは両曲を担当した歌手です。

本曲『HAPPY BIRTHDAY』の作曲者:清岡千穂さんと作詞の森雪之丞さんは、アニメ『ドラゴンボールZ』のオープニング曲『CHA-LA HEAD-CHA-LA』の作詞作曲でも共同したお二人です。80年代後期~90年代のアニソン界隈においても特段、活躍がめざましい方々といえそうです。

HAPPY BIRTHDAY(YUKA) 曲の名義、発表の概要

作詞:森雪之丞、作曲:清岡千穂。編曲:藤原いくろう。テレビアニメ『キテレツ大百科』の1992年4月〜1993年4月のエンディングテーマ。YUKAのシングル『お料理行進曲』(1992)B面に収録。コンピレーション『キテレツ大百科 ソング・コレクション’92』に収録(1992)。

YUKA HAPPY BIRTHDAY(『藤子・F・不二雄生誕90周年記念 藤子・F・不二雄 MUSIC HISTORY』収録)を聴く

YUKAさんの歌唱にはダイナミクス、表情づけなどの面ですべてが備わっているのではないかと思えるくらいにリッチ。情緒豊かで確かな輪郭と芯の描線を感じます。私の思う理想のシンガーの1人です。

サウンド面ではピロピロぽこぽこ、わくわく感のあるシンセサイザー系の明瞭でタイトな音と、ドラム・ベースの太くてリッチなサウンド、そしてサビあたりで薫ってくるハープシコードの乙女チックで繊細なウワモノの情感のコントラストが至福です。

間奏で容赦なしのグラマラスでエッジーでパワフルなエレキギターソロが入ってくるところがなんとも90年代っぽくぬかりがないといいますか、ソロシンガー名義の作品でこの体裁・形式を備えているところに勝手ながら回顧じみた感慨深さを覚えてしまいます。90年代Jポップのおいしいところが凝結していますね。

YUKAさんの歌唱の単一の描線に覆いかむさらず、引き立てる絶妙なバランスで声のハーモニートラックが字ハモや「Uh」などの母音伸ばし系のサウンドを添えています。エンディングではオケがフェードアウトしてバックグラウンドボーカルパートだけが残ります。なんだか、あなたへの愛を直接いえずに、お誕生日会の輪だけが粛々と進行する主人公のもどかしい哀愁の表現に重なってグっとくるところです。

愛を直接伝えてしまったら、いまの友達関係がぐらついてしまうかもしれない……その恐れから、愛を伝えることができないままでいるのです。

友達関係って、勤労世代になると、喫緊のものではなくなる人が多いでしょう。人生において、精神に豊かさをもたらす重要なものではありますが、日々の生活において優先度は下がるものと思います。

対して、ロウティーンにおけるそれは本当にいち個人の精神の命運を大きく左右するものが友達関係です。その延長上に恋愛関係がありもします。

己の精神活動を、友達関係や恋愛関係が比重を大きく占める時代は、人生の絶対的な持ち時間の割合でいったらごくわずかですが、生涯に渡る、その人のポリシーや反射神経の方向性の基礎をなすのに大きく影響を与えるのが、ロウティーン時代の友達や恋愛の関係です。

その儚さ、切なさに祝福のおまじない“Happy Birthday to my friend”の言葉をなげかけているようにも思います。勤労世代・シニア世代の胸のなかにいる、あの時だけのあなたたちへの思慕を浄化しているみたいな清らかさがあります。A面曲の『お料理行進曲』の世間的な存在感は絶大なのも確かですが、こちらは私が保証する名曲です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>お料理行進曲キテレツ大百科 ソング・コレクション’92YUKA

参考歌詞サイト 歌ネット>HAPPY BIRTHDAY

YUKA 公式サイトへのリンク(2025年末閉鎖)

フェイス音楽出版>村石 有香

『HAPPY BIRTHDAY』を収録したコンピレーション『キテレツ大百科 ソング・コレクション’92』に収録(1992)

『HAPPY BIRTHDAY』を収録したコンピレーション『藤子・F・不二雄生誕90周年記念 藤子・F・不二雄 MUSIC HISTORY』(2024)