まえがき

作詞・作曲のピート・タウンゼントが幼少時に父と訪れたマン島で見た人々のことを動機に書いたのがこの楽曲『Happy Jack』だといいますがどんな人々だったのでしょう。キーを外した歌を歌うだとか、猛牛のように暴れるかのようなシーンを思わせる描写が歌詞のなかにあるように思えるのですが、理性や身体の感覚がちょっとユニークな存在に思え、動物的な印象も受けます。

「レーミファ♯ッソッシッミッソファ♯レ」といったせせこましい感じの音形を提示、終尾、ヴァースの折り返しの部分のみで用い、急にダカダカと激しくなったりカットしたフィルムをつないだみたいに急におとなしくなったりと情緒が不安定みたいな唐突な起伏を露呈する奇曲。あるいはそれこそがこの『Happy Jack』の人格の平常運転なのでしょう。酔っ払って声が大きくなったり、急に眠くなったりする人の輪……そんな情景とも違うのかどうか。

The Who『Happy Jack』のモチーフの採譜例。なめらかでシンプルにも思えますが、基本的なリズム形を上手く組み合わせて、スタッカートした演奏のニュアンスを活かし、フックのある珍妙な印象づくりに成功しています。

Happy Jack The Who 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Pete Townshend。The Whoのシングル。US版のアルバム『Happy Jack』(1967)に収録。UK版のアルバム『A Quick One』(1966)にある楽曲『Heatwave』を外し、収録されていない『Happy Jack』を挿入し改題したのがUS版のアルバム『Happy Jack』の当初の収録曲構成だと思われます。

The Who『Happy Jack』(ベストアルバム『Meaty, Beaty, Big & Bouncy』収録)を聴く

ドラムが入らないところでは本当にまったく入っておらず、あるいはスティックをカチカチやっていたりして、バックグランドボーカルが4分打ちでリズムを刻み、ベースと一緒にベーシックの足並みを保っていたりし、そして猛犬がくらいつくかのようにまた唐突にドラムスが烈火のごとく入ってきます。なんなんだコレ。おもちゃのワニの歯を一個ずつ押し込んでいき、アタリ(ハズレ)を引くとワニが噛み付いてくるおもちゃを思い出しました。

激しいところにはハンドクラップも入ってくる。ガチャガチャしたバンド、フィジカルなサウンドのオーバーダブのサウンドに激しく珍妙なサウンドながらも深い親しみを私は覚えます。これだよ。

ドラムをちかくで聴いたらウルサイよ!と想像しますが収録されている音像はほどよい距離感、音量感があります。安心して、柵の外から猛犬を見ている感じですね。ずうん、ベキンというベースのアタックのサウンドにエッジがあります。ピックで弾いているのかな。

アンタは人から指さされてヘンテコだといわれてもそれでブルー・スカイなんだよと、ちょっと偏屈な角度で光をもらった気分になる珍奇な傑作です。おれもHappy Jackになるよ。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ハッピー・ジャックア・クイック・ワン

参考歌詞サイト JOYSOUND>Happy Jack

The Who Webサイトへのリンク

『Happy Jack』を収録したThe Whoのベストアルバム『Meaty, Beaty, Big & Bouncy』(1971)

『Quick One & Happy Jack』と題された後年発売の再発バージョンと思われるアルバム。楽曲『Heat Wave』『Happy Jack』どちらもこれで聴けるみたいです。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】唐突な起伏に満ちた奇妙『Happy Jack(The Whoの曲)』ギター弾き語り』)