春になったら ハンバート ハンバート 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:佐藤良成。ハンバート ハンバートのアルバム『アメリカの友人』(2002)に収録。

ハンバート ハンバート 春になったらを聴く

生楽器の質感と響きで満たされる全編に審美性が漂います。

胸に深くやさしく響く佐野さんのリードボーカルが自然、かつ聴かせる技能を磨き続ける幅のある人生が静かに渾然一体となってぶつかってくるようで私の感情も揺らぎ、生楽器で逃げもかくれもしないオケと調和します。

右に開いた定位の楽器はマンドリンでしょうか。トレモロでマンドリンらしさを前面に思わせる奏法、かと思えばアコースティックギターのように流れるようなアルペジオで聴かせる。腕前の多彩さに感嘆です。

左に開いた定位でリードするギター類は、フレーズのあたまやおしりでわずかにポルタメントする質感。フレットレスギターなのでしょうか。

伴奏のボディはナイロン系のギターがぽろぽろと。エンディング付近ではオケがふわっと止んでナイロン系ギターの音色がはだかんぼうになります。

ベースもコントラバスベースでフレットがない系ですね。ずんと深い、空気を揺らす音色で楽曲の質感のボディを担います。

イントロとエンディングにだけ出てくる独特のハープ類の音色は五つの赤い風船『遠い世界に』でも聴けるアノ音色……これはオートハープでしょうか。チャカチャカと軽い質感、それでいて絢爛で華やかなグリッサンドのサウンドでらんまんの春の花咲き・芽吹きを印象づけます。その華やかさゆえ、独特のさびしさがかえって際立ちます。

オートハープの音色にはちりーんと澄み渡る音色でベルの音が重なっているようにきこえます。自転車のハンドルにくくられるような小型のベルでしょうか、どんな楽器なのかな。

ふわふわとボーカルがまとう残響の質感が少し長くて、でも儚くて、やわらかくてせつなげです。

“はじめて恋した 君を残して 僕は一人 あてもない旅に出た つよがりを言って飛び出したけど 君の声が忘れられない 長い夜” “暖かくなったら 帰って来るよ こんな僕を迎えてくれるなら”(『春になったら』より聴き取り(表記未確認)、作詞:佐藤良成)

日記帳のはしにぽろっと書いたような短く小さな詩片が、かえって春の悲喜こもごもの広漠とした観念を際立たせます。

帰りを迎える側も変化する。迎える側は、果たしてそのときも変わらず迎える意思でいてくれるのか。あるいは七転八倒ありながらも結果として、長い時間経過の入り口と出口が「迎える意思」でありさえすればそれはみなまで言う必要もないのかもしれません。

春と春のあいだに夏も秋も冬も通り抜けます。こないだも春じゃなかったっけ? すぎた春は全部重ね合わせになって、私のなかに渾然一体となった春として蓄積されます。

短くても心いっぱい、ありのままのサウンドで迎えてくれるこの曲が美しい。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ハンバート ハンバート

HUMBERT HUMBERT 公式サイトへのリンク

『春になったら』を収録したハンバート ハンバートのアルバム『アメリカの友人』(2002)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『春になったら(ハンバート ハンバートの曲)ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)