まえがき
一定のコードを繰り返し、演奏の熱量の起伏でヴァースとコーラスに対比をつけます。シンプルが故に繊細なサウンドの幅が際立つ美しい曲だと思います。 ファーストアルバム『Pablo Honey』とサードアルバム『OK Computer』の間に位置するアルバム『The Bends』の中では、サウンドのアティテュードが最も懐古的な部類といえるかもしれません。アコースティックギターのストラミングサウンドとエレキギターのサウンドの折衷が快いです。
High and Dry Radiohead 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Thom Yorke、Ed O’brien、Colin Greenwood、Philip Selway、Jonny Greenwood。Radioheadのシングル、アルバム『The Bends』(1995)に収録。
Radiohead High and Dry(アルバム『The Bends』収録)を聴く
アコギがしゃくしゃくと鳴って、音数がだんだんふえていきます。
ヴァースのボーカルのストロークがちょっと多くて、コーラスでは音形が大まかで、からだにまといつく糸がほぐれていくようにシンプルになっていきます。
歌い出しのボーカルが極めてソフトです。サビはファルセットに抜けて行く感じでしょうか、上行音形で「high」の単語を意匠するかのよう。
ヴァースの歌唱の熱量も局面によって変化します。たとえばツーコーラス目のヴァースの折り返しあたりからの歌唱のニュアンスなどは、楽曲冒頭付近の歌唱のニュアンスとだいぶ違って、だんだんと雄々しい印象の声の響きになっているのではないでしょうか。トム・ヨークの歌い手としての表現の幅の豊かさが1曲のなかにみてとれる、という意味だけに限ったとしてもこの曲を聴く価値があるのではないでしょうか。
コツっとリムを使いわけ、オープンストロークでスネアの特徴的な、ガバっ、ガツっとしたサウンドのキャラが出ます。ベースプレイは堅実ですがふわっとのぼってはおりる、重要な音程のあいだをうめるフレージングを含めて確かな演奏でシンプルなコード進行を支えます。
そう、コード進行なんてずっとⅡm、Ⅳ、Ⅰ。これだけなので、かえって演奏の熱量の意匠やボーカルの感傷の量にリスナーの注意が行き届くのです。コード進行は複雑ならいいってもんじゃない。そんなのは世界中が知っている事実でしょう。
アコースティックギターのストラミングを中心に、ギターの数がふえていきます。アコギにくわえて3本くらいのエレキがなっている瞬間もあるか? と思うほど、音の足し算による意匠がみてとれます。ぶすぶすと歪んだエレキがダウンストロークでビートを押し出す局面。間奏では鋭い音色のギターがごくシンプルで同音連打を中心にしたフレーズがリードします。
本作を収録したセカンドアルバムはサードアルバムの「OK Computer」への皮向けの途中という印象が魅力ですが、この「High and Dry」は思い切り、前作の「Pablo Honey」にむかって後退している感じのサウンドアティテュードです。変化の肩を少しなだらかにしてくれているところがリスナーに優しい気がします。メンバー自身はあまりこの曲を歓迎している感じがしないのはそういったところが理由かもしれませんが、同時にそれが、反応や変化をゆっくりにしたいリスナーを著しく置いてけぼりにしない結果につながったのではないでしょうか。
青沼詩郎
参考Wikipedia>ザ・ベンズ、ハイ・アンド・ドライ
『High and Dry』を収録したRadioheadのアルバム『The Bends』(1995)