あぐらをかいてりゃすむのに
いまいるところであぐらを書いていれば楽なはずです。あしたも、今日なみに生きられればそれでいい。
それはそれでたいしたものです。今日できたことをあしたもできるというのは、ある種の幸福なのですから。
でも、ちょっと苦しい思いをしてでも、今までに観たことのない景色をみたい。この先に行きたい。そこの光景を知りたいのです。だから旅をするのです。
旅はどこかへ行くことだけではありません。同じ場所に根を張っていても、昨日までとは違うヴァイブレーションをその場所で起こせば……今日まではやってこなかった新しい行動を起こせば、場所(舞台)は同じだとしても旅なのです。その果てにありつける楽園をめざして、望ましい境地、理想のために、今日も、まだ見ぬ新しい明日を実現するために一歩を踏み出すのです。
誰も見たことのない景色への道のりは孤独です。誰かの足跡がないのですから、それは一人の冒険であり一人の旅なのです。
でも、一人旅に仲間がいちゃいけない、というわけでもない気がします。一人ひとりが己と戦っているまとまり……そういう同志がいてもいいでしょう。むしろそういう同志の存在を希望に、今日も旅を求めて、冒険の一歩を踏み出せる気もします。
一人旅 サンズ・オブ・サン 曲の名義、発表の概要
作詞:かつたかつとし、作曲:瀬尾一三。サンズ・オブ・サンのアルバム『海賊キッドの冒険』(1972)に収録。
サンズ・オブ・サン 一人旅を聴く
MAOさんの独特の声質のダブルトラックのボーカル。そしてこの楽曲の勢いよ。冒険への求心力を覚えます。
サックスの短2度でずりあげるリフ。バンジョー、それからエレキギターと手を組んでブルーノートチックなフレーズを奏でるオープニングとエンディングでサンドイッチ。間奏付近にもこのリフが入るので……「ビッグマック」みたいな感じすかね。
ピアノがバチバチと雄叫びをあげます。ドラムスのキックに心臓がばくばくしそう。ベースが高揚感をあおります。
見事なくらいにスリーコードのみで構成するシンプルさにも、オープニング・エンディングのリフの存在感も手伝って臆することがありません。快走です。
“自由を求めて旅に出る おいら気ままな一人旅 何があるかは知らないが 今のおいらにゃ気にならぬ”(『一人旅』より聴取、作詞:かつたかつとし)
何があるかわかってちゃむしろつまらない。むしろそうした未知を求めているがため旅をするのです。しがらみからの解放とかいったシケた動機ではない。好奇のおもむく、その衝動を止められない勢いを感じます。
“緑の森に赤い空 牧場にきこえる牛の声 夕陽が沈む山陰に 赤く染まった俺の顔”(『一人旅』より聴取、作詞:かつたかつとし)
色を効果的にとりいれます。アルバムのジャケ絵がカラフルで原色の強い印象を出しますが、歌の内容もそうした強くて際立った大胆な配色を感じる歌詞です。
夕刻を描きます。どんな意図でしょう。これから夜がはじまるというそんな時間に旅に出るなんて。それまでに経てきた一日のストーリーがあるのを想像させます。
あるいは人生の早い時期を朝、青年〜壮年を昼とすれば……もうすぐ人生の折り返しだというところ(夕方)で、一体この世にあとどれだけ自分にとっての未知があるというのだ? と、なかばつまらなくなりそうな中年期を励ます歌なのかもしれません。
毎日を怠惰に過ごしてきて迎える中年はしんどいかもしれません。挑戦をやめずに、戦ってきたのであれば……夕方をすぎても、夜を超えて、まさかの二日目も三日目もあるかもしれない。冒険も旅も、あらゆる人に許された自由の行使なのです。
青沼詩郎
『一人旅』を収録したサンズ・オブ・サンのアルバム『海賊キッドの冒険』(1972)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『一人旅(サンズ・オブ・サンの曲)ピアノ弾き語りとハーモニカ』)