ホームラン・ブギ 笠置シヅ子 曲の名義、発表の概要

作詞:サトウハチロー、作曲:服部良一。笠置シヅ子のシングル(1949)。

笠置シヅ子 ホームラン・ブギ(『笠置シヅ子全曲集 東京ブギウギ』収録)を聴く

笠置シヅ子さんの歌ってすごく機嫌が良い。この録音物にしても、にっこりと口角をあげて、いきいき・嬉々として歌っていらっしゃるのじゃないかと想像します。

ブギを冠した歌がこの頃は盛んにつくられたのでしょうか、たとえばこの『ホームラン・ブギ』を収録した“全曲集”にしても「〜ブギ」なる曲が複数収録されています。

戦争でひどいことになった国、これから未来にむけて良くなっていくしかない(なにせ、これまでに大変な目にヒトも街もなりすぎたからスタート地点が低いという意味で)、その人々のマインドがこういう「〜ブギ」の類に向かったのかどうか当時の大衆の心を私は知るよしもなく想像するばかりです。

モノラルの音像でチリチリと強靭なノイズが常に鳴っています。SP:エスピー盤という媒体でリリースされたのが当時でしょうか。しかしこの類のノイズを含んだ音楽を配信しなおしたこれらの音楽も聴き慣れると心地のよいもので、むしろ現代的な音源にはない恒常性を覚え聴き入ってしまう私です。

ホームラン・ブギですから野球が主題なわけですね。ひとつ……ふたり……ななつ……やっつ……などと、番によって数字が上がっていく趣向を感じとれますが抜けている数字があるようです。ホントは9番まであるそうですがこの省略形が普及しているように察します(確かに全部歌ったらちょっと長そう)。

先にもいいましたがモノラルなので、ぎゅっとせまい角度のなかにさまざまな個性のパートがひしめきあって感じます。縦長、3:4サイズの映画ポスターに所狭しとキャストが遠近感をつけて集合しているような様相を想起する音像です。Fキーの主音から増4度を経由する感じの「ブギ」らしさを醸すベースラインが特徴です。ピアノも一緒にベースラインを弾きながら右手で和声感とリズムを強調している感じでしょうか。拍手!でのクラップの集合、後半のあたりで目立ってくる声種混交のシンガロングがあたたかでにぎやかです。

吉田拓郎のホームラン・ブギ(『豊かなる一日』収録)

吉田拓郎さんがカバーしているのもあって私のこの曲への注目度を高めました。

ロックンロールっぽいのスタイルでご機嫌にきかせます。野球への愛も感じます。吉田さんだったらヒロシマにご縁があるでしょうからやっぱりカープ推しなのでしょうか。

そうそう、球団の古い時代の略称や愛称が8番で連なりますね。勉強になりました。今も略称が変わっていない球団も少なくはありますがあるのですね。

かっとばせーかっとばせーふれーふれーふれー! にキレがあります。

この曲、吉田拓郎さんの2003年のシングル『純』にカップリングされているようなのですが、やや入手のハードルが高めのように察します。ライブ版じゃないほうも聴いてみたいですね。

これはスタンドを突き刺すだろう!という打球が胸をときめかせ、観衆を興奮させます。その打球の勢いと飛ぶ先に、おのれの明るい未来と望ましい成果を想像させる気持ちの良い楽曲です。

『ホームラン・ブギ』歌詞が教えてくれる野球文化の初歩知識

ラッキー・ゾーン

ここで一本 ホームラン・ブギ
これが終りだ 九回裏だ
コキンと飛ばして サヨナラしよか
のびたのびたよ ラッキー
ラッキー・ゾーン

(『ホームラン・ブギ』より、作詞:サトウハチロー)

野球観戦の楽しみに疎い私。恥ずかしながら、ラッキー・ゾーンなる単語を初めて知ります。
本来の柵よりも、より本塁打が出やすいように本塁側にせり出して(外野グラウンドの領域を侵食して?)設けられた領域がラッキー・ゾーンなのですね。画像検索するとイメージをつかめる写真に出会えると思います。

画像検索で得た、野球におけるラッキー・ゾーンの私のイメージの一例

ラッキー・ゾーンがなければ本塁打にならなかったものがラッキーによってホームランになる……私自身が打者だったらどうでしょう、ラッキーな柵なんてなくても叩き込めたら一番カッコイイし胸が張れるでしょうから、いかにも「ラッキー♪」という単語でその本質が言い当てられていると思います。

ま、ラッキーでホームランになるのなら、そっちのほうが選手にもチームにもファンにも喜ばしいはずです。「ゲーム性」があって良いですよね。野球はもちろん真剣勝負の競技としての側面もありますが、エンターテイメントでもあるのですから。

参考Wikipedia>ラッキー・ゾーン

ラッキー・セブン

七つ涙の ホームラン・ブギ
ぽろりぽろりと ラジオの前で
伜出かした よくこそ打った
見事当てたぞ ラッキー
ラッキー・セブン

(『ホームラン・ブギ』より、作詞:サトウハチロー)

Wikipedia>ラッキーセブンによれば、1885年のアメリカ野球のとある試合の7回、平凡なフライが風に吹かれて乗って本塁打になり、その試合あるいはそのシーズンの決定的瞬間になった……これがラッキー・セブンの起源の一説とする旨があります。

野球文化が長く楽しまれるうちに、7回になると何かが起こるのじゃないかと期待して応援に力を入れるとか、そういう習わしが醸成されているようです。これが私が検索によって得た、野球におけるラッキー・セブンのイメージです。

野球以外においても7には何か良いことの兆候かのようなイメージがつきまとい、7をありがたがることがあると思いますが、野球以外で一般に幸運の象徴かのように7が扱われる傾向も、もともと先に述べたアメリカ野球での出来事が起源になっているとする説があるようです。

古い時代の球団名

八つチームの ホームラン・ブギ
虎に巨人に ロビンス阪急
鷹に東急 中日スターズ
みんな揃って 元気な元気な選手

(『ホームラン・ブギ』より、作詞:サトウハチロー)

阪神は現在のイメージと合致します。
巨人も、まんまですね。
ロビンスは初耳で、現在の横浜DeNAベイスターズにあたるもよう。
阪急と聞けばちゃんとした野球ファンは当然結びつくのかもしれませんが、現オリックス・バッファローズだそうです。
は現ソフトバンクホークスですので「虎」のようにかつてからの愛称とイメージが直結します。
東急も私はわかりませんでしたが現北海道日本ハムファイターズ。東急グループが1球団の出資者の筆頭になっていた時代があった? という理解でよいでしょうか。

中日はまんま、ドラゴンズですね。
スターズはまったく想像もつきませんでしたが現千葉ロッテマリーンズ。(ゴールドスター→金星スターズ→)大映スターズ(→大映ユニオンズ)→毎日オリオンズと改名や合併を経て名前が変遷しているとのこと(参考Wikipedia>千葉ロッテマリーンズ大映ユニオンズ)。

各球団の変遷史だけでも、専門家が何冊も本を書けそうなテーマです。

人生の各ステージと共にある野球

昔なつかし ホームラン・ブギ
甲子園から 野球に通い
今じゃ伜が 大学野球
可愛孫さえ 小学 小学選手

(『ホームラン・ブギ』より、作詞:サトウハチロー)

甲子園、大学、小学、そしてプロ野球まで歌詞に登場します。人生のどんなステージにいる人にも、野球の世界が拓かれているのを想います。つくづく大衆に愛されている文化でありエンターテイメントであり趣味・レジャー・研究対象ほかあらゆるテーマになりうる深淵な野球。音楽作品にも、野球への愛を感じるものや野球に関するなにかしらを主題・モチーフにしたものの多さを日々大衆音楽を鑑賞しているだけでも思い知ります。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ホームラン・ブギ笠置シヅ子

参考歌詞サイト 歌ネット>ホームラン・ブギ

『ホームラン・ブギ』を収録した『笠置シヅ子全曲集 東京ブギウギ』(2018)※遅くとも2004年ごろにはこれに近いコンピレーションは存在したもよう(参考リンク)。

『ホームラン・ブギ2003』(ライブ演奏)を収録した吉田拓郎のアルバム『豊かなる一日』(2004)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ホームラン・ブギ(笠置シヅ子の曲)ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)