吉田拓郎さんが2024年11月20日にミニアルバム『ラジオの夢』をCDでリリース。カバー曲『骨まで愛して』が収録されています。この曲のご本家の城卓矢さんと併せて聴いてみましょう。
骨まで愛して 城卓矢 曲の名義、発表の概要
作詞:川内康範、作曲・編曲:北原じゅん(文れいじ)。城卓矢のシングル、同名映画の主題歌(1966)。
作曲の北原じゅん、またの名を「文れいじ」さんのご本名は菊地正巳。歌い手の城卓矢さんのお兄さんです(城卓矢さんのご本名は菊地正規)。作詞の川内康範さんは菊地正巳からみて“叔父(叔母の元夫)”とのこと。(参考Wikipedia>北原じゅん)
城卓矢 骨まで愛して(『ゴールデン☆ベスト 城 卓矢』収録)を聴く
このなつかしみ、沁みる感じ、落ち着くフィール。
唐突に違う話で申し訳ないのですが、大昔、ビートマニアというゲームソフトがあって、それをゲームボーイという任天堂のゲーム機で遊びました(本家のプラットフォームはなんだったかな……ゲームセンターのアーケードか、あるいは家庭用ゲーム機で出ていたのかどうか。私が遊んだのはゲームボーイ版です)。いわゆる音ゲーの始祖的なものです。ブレイクビーツ、ハウス、テクノみたいな様式の曲もあるのですが、そうしたラインナップのなかにアクセントを狙ってか、稀に歌謡曲だか演歌チックな曲目が含められていたのです。その演歌ちっくなの体感に、この城卓矢さんの『骨まで愛して』は至極近いものがあります。ゲームボーイ版ビートマニアの参照元の曲をここではっきりさせられないのが申し訳ないのですが……
そんな思い出があるせいか、1986年生まれの私は城卓矢さんの『骨まで愛して』のリリース時のリアル世代ではないのに、「なつかしさ」「沁みる感じ」を覚えるのです。
なつかしさって、積層なのですね。たとえば親世代とか祖父母世代がふれていた音楽を懐かしがっているのを見て、それより下の世代も同様に、そうした「先祖にとっての懐かしみ種」を、自分自身にとっても「なつかしい感じのするもの」として認識するのです。年輪みたいなもの。遺伝子の中に込められているみたいですね。社会全体で、その人種とかその国民の遺伝子や感性をざっくり共有しているみたいにも思えて興味深いです。
右のほうからボンボンとベースがあたたか。左のほうから飛んでくるドラムは驚くほどオフマイク。距離のある、空間の響きを録音するようなドラムの音で、キックの音がほとんど聴こえないくらいです、鳴っているかな? どうかな? ……という。楽団の中に奥まって溶け込んだドラムの音もまた良いものです。現代の大衆音楽・商業音楽ではほとんどこのようなドラムのサウンドは生産されないでしょう。些細なことかもしれませんが、私には沁みます。
右のほうからストリングス。右と左それぞれからエレキギターのリードが聴こえてきてハモります。左のほうからは、アーミングで強烈にコードストロークを揺らしたエレキギターの音も聴こえます。バミョ〜〜ン!って感じ。私をニヤリとさせます。
ビブラフォンがエンディングに漂って、古関裕而『別れのワルツ』感。
城卓矢さんの歌唱は強くてホットです。ロングトーンするところで、ダブリングなのか、あるいはエコーチェンバーの付加なのか、その歌声の強烈さを増します。オーバーゲインしてテープコンプレッションするみたいな迫力があります。マイクへのノリと吸い付き抜群の、明るくて暖かでやわらかな歌声。城卓矢さんはカントリー・ウェスタン歌手としての経歴もあるようです。「城卓矢」名義で知られる以前の音楽キャリアをお持ちなのですね。
生きてるかぎりは どこまでも
探しつづける 恋ねぐら
傷つきよごれた わたしでも
骨まで 骨まで
骨まで愛してほしいのよ
『骨まで愛して』より、作詞:川内康範
「恋ねぐら」の語彙にうなります。安寧の境地。あなたにめぐりあえて、私は腰をおちつけられる。このまま安定の幸せとともにあれる。そういう出会いと関係構築にありつける様子を、「恋ねぐら」のたった一言で表現します。素晴らしい語彙をきょう、私は収集しました。
骨まで愛して、という表現は、白骨などを想起するとグロテスクというかヘヴィでダークなイメージですが、骨身という語彙がありますので単に、あるいは純粋率直に私のすべてを心もからだも指先の動きも今朝の起き抜けの何気ないあいさつのひとことも含めて全部!愛してほしいという願いや想いのあらわれであるとも思います。純粋でまっしぐらです。この身のすべてを。ア・ホール・オブ・ミー。楽曲の主題・本性がロマンチックで痛烈です。
吉田拓郎 骨まで愛して(ミニアルバム『ラジオの夢』CD収録)を聴く
(配信など未対応(執筆時:2024年12月時点)のようです。CD買ってお聴きください)
楽団が一体になっていてグっと来ます。最後のバンドのかき回し、ドラムのシメ。これだよ。
たくさんのメンバー数。音数。バックグラウンドボーカルが「ワッ!」とはやしたて、背景を麗しくいろどります。サックスの音色は城卓矢さんバージョンと共通の楽器のはずなのですが、別ものです。曲調もまさに別もの。城卓矢さんバージョンを初めて聴いたときは、「うおぅ、すごいネットリ感……」と正直思いましたが、吉田さんのスコンとさばけた明るくて景気のよいカバーを聴いてから城卓矢さんご本家の『骨まで愛して』もようやくフラットな姿勢で聴けて、気持ちよく感じられるようになったほどです。カバーの鑑とはこのこと。
ピアノが転げ、ドラムが轟き、バックグラウンドボーカルが華やいで、エレキギターがおどけ散らし、吉田さんのリードボーカルのダブリングサウンドがオレンジ色、暖色の光を放ち、尾を引いて空を行く。なんか感動してしまいます。吉田さんバージョンの編曲は武部聡志さんです。お見事。
吉田さんのアルバム『ah-面白かった』(2022)は、コロナ禍の影響もあってか、スタジオでミュージシャンらと一堂に会して音を合わせる制作方法が難しかったのが心残り……その宿題をようやく消化できたのが今回のミニアルバムの制作だったといいます(これは吉田さんのラジオ出演時のトークや吉田さんのエイベックスサイトのブログなどを読んで知った情報を私の頭の中で攪拌してねじまげて出力した実感です。特定の出典を示せなくて申し訳ありません、あなた自身で吉田さんや公式の発信を追ってみてください)。そんな背景があってか、音が、各パートの演奏が、吉田さんの歌が、びちびちと生命を帯びて歓びほとばしって感じます。すっかり吉田拓郎の大ファンな私よ。
青沼詩郎
関連リンク YouTube 吉田拓郎 / New コンセプト ミニ アルバム『ラジオの夢』【Official Teaser】
『骨まで愛して』を収録した『ゴールデン☆ベスト 城 卓矢』(2017)
『骨まで愛して』のカバーを収録した吉田拓郎のミニアルバム『ラジオの夢』(2024)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『骨まで愛して(城卓矢の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)