帰らぬままにCry
“cry cry crying… 帰らない” サビの結び付近の劇的なリズムブレイクとリードボーカルのハイテンションな補完関係の掛け合いが絶大な印象を残します。「チェッカーズ」あるいは「星屑のステージ」という固有名詞と結びつけて認識していずとも、この楽曲のこの部分の記憶が脳内に格納されている人は、これまでの私がそうだったように案外多いのでは? と思うほどに目を見張る意匠と永遠の鮮烈な青さを携えた作品です。
“流星が綺麗だね お前流した涙のようさ 口笛で応えなよ あの頃のように”
“暗がりにひとつだけ 空のシート光る お前が愛した場所さ 星空で手をたたく お前の拍手だけ聴こえない 想い出は夏のまま時をとめたね”(チェッカーズ『星屑のステージ』より、作詞:売野雅勇)
曲のなかに時間の経過、季節の移ろいが見てとれます。夏から、流星がみばえする冬に到達してしまっているようにうかがえます。
星空は、歌い手である主人公からみる客席の比喩であるようにも思えます。主人公は歌手:人前に出てパフォーマンスする人間ではない……つまり主人公も一般大衆のなかのひとひらとして描く歌謡曲やアイドルソングも商業音楽作品には多いですが、この楽曲においては、あるいはある時代ある時期のチェッカーズ作品においては、主人公(自分たち)が歌手:表現者:人前に立つものである前提で制作されているのがうかがえるのも、チェッカーズ作品を鑑賞するうえで興味深い点です。
朗々とサックスの艶やかな響きの間奏の記憶を胸に、楽曲はなかばでAmからB♭mに半音上に転調し情緒は昂ぶりますが、その劇的でドキっとするような唐突な音楽上の変化に対して、歌のなかの状況がそこで変化するわけではなく、むしろ解決の永遠の宙吊りよ:この哀愁よどうか安らかにとの鎮魂歌として捧げるように星空に霧散していきます。
チェッカーズのキャリアを支えた・あるいは共に走ったというべきか分かりませんが特筆すべき人物のひとりが作詞家の売野雅勇さんでしょう。彼の著書『砂の果実』に、その時期のエピソードやチェッカーズの様子や売野さん自身による作品に込める意匠や意図が明かされています。チェッカーズ作品を鑑賞する解像がより鮮明に・立体に感じられる貴重な証言・資料ですのでぜひ楽曲とともに参照してください。
星屑のステージ チェッカーズ 曲の名義、発表の概要
作詞:売野雅勇、作曲・編曲:芹澤廣明。チェッカーズのシングル(1984.8.23)、アルバム『MOTTO!! CHECKERS』(1984.12.5)に収録。
チェッカーズ 星屑のステージ(アルバム『MOTTO!! CHECKERS』)を聴く
耳を覆つくさんばかりのスネアドラムとその残響が星屑のステージのその空間の広さを設計します。
ばきゅーん!と胸を撃ち抜くように、エレキギターのオープンサウンドが鋭い。イントロのジャーン!の一撃で脳髄まで貫かれてしまいます。
ボーカルのメロディにはハーモニーの描線がつき、ダブリングやリバーブもあってか、少し離れた距離すなわち客席からシンガーのパフォーマンスをみているような距離感が音像にうかがえるのです。
それに対して、左右の空間をひろげるバックグラウンドボーカルのパフォーマンスやそのサウンドが近い。目の前のステージで繰り広げられるリアルな体験とは別の心の声を映しているみたいに聴こえて、2構図対比のつくりがみえてくるのです。またこのバックグラウンドボーカルの類も、ベテランのスタジオシンガーがメラメラの響きをゴスペルチックに昇華するものではなく、自分たちの声で青々とした想いを吐露したような質感なのです。これがあって、この楽曲の幅がなりたちます。それはこの楽曲が映す、時間の経過とそれに取り残された思慕の哀愁、その無念さのようなものだと私は思います。
【虫眼鏡ポイント】
目を奪うような華々しさを他のパートに持たせているのですが、ベースの音がすごくいいんですよ。やさしいし、でも輪郭がキュっとしています。ギラギラしたような倍音を実音の上の帯域にかむせることは控え、引き締まっているんです。このベースのサウンドとプレイのおかげで、楽曲の地平の下限が開拓され、足元方向への空間が広がる結果、相対的にステージの上の者たちの華々しさや救いようのない哀愁が強調されるんです。チェッカーズはアイドルだか歌手だかバンドだかあるいはその全部だか決めかねてしまいますが、純然たる音楽として聴ける要素がこんなふうに細かいところにも見出せると思います。
青沼詩郎
参考Wikipedia>星屑のステージ、もっと!チェッカーズ
Xアカウント 「チェッカーズ」ポニーキャニオン公式 (@checkers_info)
『星屑のステージ』を収録したチェッカーズのアルバム『MOTTO!! CHECKERS』(1984.12.5)
参考書
売野雅勇さんの『砂の果実: 80年代歌謡曲黄金時代疾走の日々 (河出文庫・2023年、単行本は朝日新聞出版・2016年) 』。チェッカーズのエピソードを真面目に書いていらっしゃるんですが、それに近い時期の金的ゴルフボール事件のエピソードのインパクトが強くてこの本についてつい思い出すのがそればかりになってしまいがちな私は煩悩の星屑です。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『星屑のステージ(チェッカーズの曲)帰らぬままにCry ギター弾き語り【寸評つき】』)