作詞:藤井郁弥、作曲:大土井裕二。編曲:CHECKERS FAM.チェッカーズのシングル、アルバム『GO』(1987)に収録。

最近60年代や70年代の楽曲を好んで聴く機会が多いです。パートごとの定位のつけかた、左右の振り方が極端で、ドラムスやベースなどのどっしりとしたパートが左右どちらかにがっつり振られていたりいなかったりするなど、よくもわるくも刺激的ではっきりした定位づけがなされている音源に出会うこともしばしばです。聴き慣れると「よくもわるくも」が「よく」のほうに偏ってくる。自分の好み、感覚のバランスが「よくもわるくも」狂って(笑)いくのを感じます。

そういうなかでこの『I Love you, SAYONARA』を聴くとすごく安心するといいますか、真ん中に重要な音がまとまっているのを実感します。「安心」などというあたり、自分のバランス感覚が「狂って」まではいなかったと思うと同時に、じゃあ60年代や70年代くらいの定位づけの感覚は「狂って」いたのか?というとそう言いたいわけでもない、あれはあれで好きだという自分がいるのを自覚します。

『I Love you, SAYONARA』のリスニングはそんな真ん中の安心感を私に感じさせてくれたのですが、サビに向けて、「ウー」系のバックグラウンドボーカルが広がったり、サビではスネアドラムが謎に驚異的な突出したリバーブ感を露呈しだしたり、コーラスがかったギターのアルペジオと歪んだギターのカッティングがかけあわさったり、シンセ(鍵盤もの)はうえから降臨するようにオブリガードしますし、真ん中で安定した印象の出だし〜ABメロから徐々に盛り上げ、サビで左右もいっぱいにつかってウワっと臨場感を出しはなやかさ・きらびやかさとワルっぽい愛嬌をフルテンにしていくはこびが非常に巧いし気持ちが良いです。

藤井郁弥(フミヤ)さんの声は埋もれない、中くらいの音域に粘りがあってすばらしい質感です。この声と、バンドの全力の確かな演奏がバチバチに真剣勝負している感じのバランス感。仮にチェッカーズが藤井郁弥さんのワンマンな独力に頼ったバンドであったならばこのオトにはならないでしょう。

「ボーカルがハナです」というところに甘んじない……オレらはバンド全部でハナなんだ!という気概を感じる、派手でエネルギーと自己主張があって潔くきもちいい音の頂上がサビで結実する様相です。

BメロでⅤ→Ⅳなどの、音楽のパッセージを流暢に高揚させていくには異端児となる和音進行を用いてAメロとサビを上手につないでドラマティックさを掘り出しています。Aメロやサビがリフレインのあるしっかりしたボリューム感のつくりになっていて、Bメロが全体の熱量感を調節する良いかすがいとして機能しています。

Gメージャー調ですが、完全に調性のなかの和音だけをつかって全体を走りぬけます。副次調Ⅴや準固有和音などもまったくでてきません。実はかなり初心者がコピーしてバンドセッションしたりする題材曲として選んでもすばらしい響きをもたらしてくれる実直な楽曲かもしれません。サクソフォンなどの楽器を含めて、いろんな性格の楽器・パートが不便せずに力を発揮できそうな要素を備えて思えます。

“辛いと涙を見せなよ Baby 馬鹿だね女って 嫌いと言うしかなかったよ Baby 馬鹿だね 男って I Love youだけど I Love you I Love you SAYONARA”

(『 I Love you, SAYONARA』より、作詞:藤井郁弥)

つよがった表面とうらはらなこころの内を対比させたシンプルな構造がチェッカーズ、フミヤさんらしい魅力です。馬鹿だね、と強い言葉をつかって気をひき、女を登場させてどうバランスをとる……? と思わせておいて男も登場させます。みんな馬鹿野郎だッ!愛すべき。

“ここはまぶしい砂漠 Desert town”

(『 I Love you, SAYONARA』より、作詞:藤井郁弥)

些細なところなんですが、1コーラス目Bメロ。こういう、ことばの質感(言語)を変えて意味を重ねたような念押し、個人的にツボです。結局「アイラブユー」的な魂やら真理・心理を、手を変え目線をかえ、一生かけてあらゆる方法やらアプローチやらで、使える道具はなんでもためして、その時代その時代の風に乗ったり振り落とされて愚直に地面を走ったりしながら言っていきたいだけなんです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>I Love you, SAYONARA

参考Wikipedia>GO (チェッカーズのアルバム)

THE CHECKERS 40th ANNIVERSARY|ポニーキャニオン

チェッカーズ公式YouTubeチャンネル

参考歌詞サイト 歌ネット>I Love you, SAYONARA

『I Love you, SAYONARA』を収録したチェッカーズのアルバム『GO』(1987)

THE CHECKERS

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『I Love you, SAYONARA(チェッカーズの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)