抱きしめたい I Want To Hold Your Hand The Beatles 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのシングル(1963)。“赤盤”の愛称で親しまれるコンピレーションアルバム『The Beatles / 1962-1966』(1973)、アルバム未収録シングル曲などを含む『Past Masters』(1988)に収録。

The Beatles 抱きしめたい I Want To Hold Your Hand(『The Beatles / 1962-1966』収録、2009 Remaster)を聴く

The Beatles(これぞビートルズ)のサウンドの印象。私にとってのビートルズシズル感といえばこれかもしれません。

それまで2トラックだった録音機材がこの頃に4トラックに変わった(参考(以下に及んでの参考):『ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド』中公文庫、2015年)とのことですが、バスドラムの音が太くてそれでいて明瞭です。4トラックの割り振り方までは知りませんし、さらにいえばドラムに使ったマイクの本数や立て方、4トラックにする前の段階でのミキサーの有無などはわかりませんが、バンドのサウンドが、「渾然一体となった」という方向性で誉める以外の、ある種の分離のよさみたいなものを獲得するに至っているのを感じるサウンドです。

曲のサウンドに、元気が、愛嬌が、勢いがはじけています。この曲の歌詞は英語の話し手によっては「かわいい」を感じるそうです。確かに、“Oh Yeah, I’ll”……とか言って本題に入るまでに余計な口数があるところ、僕を君のオトコにさせてくれみたいなちょっとまわりくどいようなシャイ感ある言い回しなどに、英語がつたない私であっても「モゾモゾしてんなぁ!」という胸キュンを引き起こしてくれるのです。

そういう若々しい、「やり手」:恋愛の猛者でないういういしさある曲想を、サウンド面でもやってのけているのです。やってのけているどころか、期待値や達成すべき水準を超越しています。ビートルズの「まんなか」的なものをひとつ挙げるならこの曲は最有力候補だと思える一因です。

右のサイドに振られているのはジョージのギターでしょうか。するどくて、枯れた木が鳴くような、響きのある「あたたかいのにキレている」サウンドで「泣き」ます。弦をチョークする指の動きが視えるようです。

やや左寄りに定位したギターが好対照で、トーンをしぼってグモらせた(音をくぐもらせた)ようなガバガバした押し出し感あるビートで演奏します。ダウンピッキングの連続でこの押し出し感を表現していそうです。

ベースの音がドラムのキックの「新しい」感じの輪郭と質量とはまた性格を異にして、バンドになじむ音です。ポールといえばバイオリンベースですがこの楽曲の録音もそうでしょうか。あくまで「ギター類としてひとくくりのベースのサウンド」を思わせます。バンドの音がひとつになってど真ん中から飛んでくる、この「ビートルズシズル感」はやはりこのベースの音のキャラクターが必須なのです。ドラムとベースが低音をささえて、ウワモノが乗って、まんなかから解像度の高いボーカル……みたいなここ30余年のポップソングが培ったバンドの音の定型イメージとはやはりビートルサウンドは違います。ワールドスタンダードにも思えるのに唯一無二なのです。このサウンドへの憧憬を後世の私が「うまく」表現しようものなら、「はいはい、ビートルズが好きでしょ?」と言い当てられてしまうことうけあい。ビートルズフォロワーにならざるをえないのです。

クラップの音がバンドに負けないくらい絶大な威力を呈しています。2本の手のひらがあればほぼ誰にでも参加を許されるパートがクラップです。この革新のバンドを「みんなのサウンド」たらしめる和を醸すのがクラップの音かもしれませんが、それとは反対に、そんな縁側のひなたぼっこみたいな「和」は願い下げだとでもいわんばかりに強い破裂音です。ビートルズという存在自体が、「気勢」の象徴であるのを思います。

この曲を検索したくてコーラスの歌詞とサウンドを思い出しながら I Wanna Hold Your……などと検索してよく失敗します。I Wanna と口語で歌って聴こえるのですが正しいタイトル表記は「I Want To……」ですし、日本語タイトルとして『抱きしめたい』が与えられています。同名異曲も多いです。

そう、「手を握りたい」なのだけどその心は「抱きしめたい」なのです。『ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド』287頁で著者の里中哲彦さんがそうしたイメージを語っていますが、私もうなずくばかりです。

その味わいをじっくり吟味する鑑賞行動を起こすよりもずっと前に、いつのまにか存在に触れてしまう有名曲でもあります。あらためて鑑賞しますと、アツイ本心をぶつけようとする直前のもじもじするシャイ感ある味わいを知りました。このboysの恋の普遍が、革新のサウンドに乗って世界に届き、巡り続けているのです。「手を握りたい:抱きしめたい!」よ永遠なれ。

青沼詩郎

参考Wikipedia>抱きしめたい

参考サイト 世界の民謡・童謡>抱きしめたい I Want To Hold Your Hand 歌詞と和訳 ビートルズ 女優ジェーン・アッシャーとの交際中に作曲されたポールのラブソング

“赤盤”(The Red Album)の愛称で親しまれるコンピレーションアルバム『The Beatles / 1962-1966』2023 Edition(オリジナル発売年:1973)

『Past Masters』(オリジナル発売年:1988)

参考書

『ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド』(中公文庫、2015年)