まえがき
日本で人気が出て、その反響に海外での認知がついてくる?! といった広まり方をした曲、とうかがえますが当時のチープ・トリックの躍進をリアルタイムで体験した人もきっと少なからずいることでしょう。 はずんだダウンビート、ピアノのサウンドがエレクトリック・ライト・オーケストラの『Mr. Blue Sky』を想起させますが聴き比べてみると結構違います。 やはりリフレインの聴いたコーラスの歌詞フレーズやメロディなど、人懐こさが群を抜いて秀逸な楽曲だと思います。もちろんバンドメンバーらの人柄あってのことでしょう。表面のアルバムジャケットに美形のメンバー、裏面のジャケットに3枚目のメンバー(失言、大変失礼しました)を同じ構図でデザインする、自分たちをネタにするようなアートも彼らから滲み出るものがそうさせたに違いありません。 このチープ・トリックの『甘い罠』を聴くと、個人的にはプリンセス・プリンセスの『DIAMONDS』などを思い出しもします。以後の日本出身のバンドや音楽リスナーにも当時のチープ・トリックの与えた影響は甚大なのではないかと推察するのですがいかがでしょうか。 またライブアルバムをきっかけに武道館を人気アーティストの公演会場としてブランドづけるきっかけをつくったのもチープ・トリックの功績に言い含めても良いのかもしれません。スピッツの公式サイトの草野マサムネさんのプロフィール欄には影響を受けた音楽としてチープ・トリックの名前が挙げられているのも、『甘い罠』を今回改めて聴いてみてまじまじと納得するばかりです。
I Want You to Want Me 甘い罠 Cheap Trick 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Rick Nielsen。Cheap Trickのシングル、アルバム『In Color(邦題:蒼ざめたハイウェイ)』(1977)に収録。
Cheap Trick I Want You to Want Me 甘い罠(アルバム『In Color』収録)を聴く
このはずむウキウキするグルーヴ。それに繰り返しの歌詞、それによるリズムのリフレイン、コーラスのDid’t Iの繰り返しによって生じる裏拍から次の表拍に向かう推進力。ヴァースの、4拍目から次の表拍に向かって跳躍し、そこからはなめらかに順次進行で下行するメロディの緩急と人懐こさが卓越しています。ジャッジャッジャッジャッジャ……とピアノだかギターだかを弾いて歌うだけでもサマになる愛らしい世界級のポップソング、娯楽音楽の鏡です。
バンドの音がいいですね。ベースの音の細部のニュアンス、音の切り方、細部の分割のニュアンスがはずむようなピアノのサウンドと相まって良い。エレキギターもチャッと細かく切ってリズムを置いていきます。音をみんなで表拍を強調して置いていくからこそ、甘いボーカルの魅力が、ショートディレイの残像がさわやかに轟く余白が生まれます。コーラスではダブルトラックになって、そしてフレーズ尻のcryin’のところではっきりとしたディレイによるこだまも激映えです。
エレキギターソロが入って、それから早口なFeelin’ all alone ……という曲中最たる早口フレーズの部分をはさんですかさざピアノソロ。カチカチと、弦を金属質か何か硬質なものが叩くような質感があるのはピアノのハンマーに何かカスタムを施しているのでしょうか。まるでチェンバロなどの古楽器みたいな感じのアタック音があるのが魅惑です。
ヴァースのリフレインでフェードアウト。これは比較的珍しい。コーラスのリフレインでフェードアウトするのが世の中の娯楽音楽のフェードアウト処理の大半、多数派といったところでしょう。
ここで消えていくか!というフェードに、また聴きたくなるのです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>甘い罠 (曲)、蒼ざめたハイウェイ、チープ・トリック
参考歌詞サイト JOY SOUND>I Want You to Want Me
『I Want You to Want Me』を収録したCheap Trickのアルバム『In Color』(1977)