作詞・作曲:Lennon-McCartney(John Lennon、Paul McCartney)。The Beatlesのアルバム『THE BEATLES』(1968)に収録。

柔和な声で歌っているのが印象的です。はかなく、やさしく、愛らしい。実際、公私両面(楽曲のなかの世界としても、現実のポールとしても)ラブソングととらえてさしつかえなさそうな解釈に出会うことができます、ネットや書籍などで。

右側でうなるのは「口・ベース」だとか「スキャット」だとか、声で表現したポールのベースパート。音を短く切りすぎるのでもなく、確実に音楽が求める必要な長さを伸ばしたうえでタイトに切っています。この「口ベース」のグルーヴが素晴らしい。

左側ではコツコツとリムショットとのびのびしたライド・シンバル。それからポクポクとウッドブロックふうの音色(これが「スカル」でしょうか。木魚とも?)。このポクポクはジョン。リンゴがリムショットやシンバルやボンゴを演奏しているそうです。右側からきこえるマラカスもリンゴ。左側のジョンのポクポクとボンゴの音色がなかなか似ていて、ふたつをあわせてひとつのパートのような一体感を出していますが注意して聴くと複雑なリズムを成していて(ポリリズムとまでいうべきではないかもしれませんが)、二人がそれぞれちがう楽器を演奏していてかつ接着した良さが味わえます。

メインのアコギはやや奥まって柔和なサウンドで声に寄り添います。メインボーカルが前に出て、あたたかさと太さがあり確かな存在感。やさしい柔和なボーカルなのに、この手厚い存在感のボーカルのオトが気持ちいい。

メインのアコギがフィンガーでやさしくストラミングしたような広がりある響きなのに対して、右側でオブリガードするギターが派手でエッジがあってバンドとしての「ビートルズっぽさ」を感じるサウンドです。エッジが立った鋭さのあるサウンドなのでまるでエレキギターみたいに感じるのですが、12弦のアコギでしょうか。トランスだか真空管だかわかりませんが、すばらしい音響機器を通った増幅感とキャラづけを感じるオトで、ただの生アコギを超越した「ビートルズらしい音」。思わず喉から手が出そうになる(ほど欲しくなる)音です。

口ベースのアタック音がパーカッシブで、ポールひとりでもアンサンブルを構築するすべてのパートができてしまう気配が物陰で喉をごろごろ鳴らしているみたいなグループ作品の様相で、これはこのアルバム『ザ・ビートルズ』全体に横たわる雰囲気、共通する特徴かもしれません。

多重録音を可能にした世の中や業界的な「テック」の面が、皮肉にもバンドとしてのビートルズをばらばらにするのを手伝った、加速・加担した……といったような解釈が世の評論に散見。

「最悪、じぶんひとりでなんとでもできる」というポール(あるいは各メンバー)の自信や環境・機材・設備などの後ろ盾が、挑戦的で個性的で唯一無二の雑多なアルバムの性格を助長したきらいか。まわりはハラハラしたり辟易したり、もうこいつらには付き合いきれないと退く者もいたり……といったこともあったのかなかったのか知りませんが……

とにかく、「個別の表現者の集まり」でもある面と、ビートルズを「バンド」としてみなせるギリギリのバランス感でせめぎあったような独特の雑多な雰囲気、それでいてアルバムジャケットはまっしろけというインパクト。特定の色に染まるのを拒む、理に適った「まっしろ?」。赤・緑・青の光の三原色を重ね、中央が白色光になる図を思い出します。

図:光の三原色の重ね合わせのイメージ。

強烈な個性が重ね合わせになった(あるいは、ならなかった?)が故の「ホワイト・アルバム」でしょうか。個別の曲も短く淡白なものが多い印象もありますが、輝き、あるいはくすみ・翳り・闇、鬱屈や哀愁や愛情、皮肉や風刺や冷たく思えるほどに純粋な観察のまなざしが一筆描きのようにさらりと出ています。

『I Will』は楽曲の愛らしいやさしげな性格も手伝って、『ホワイト・アルバム』の光の面のハイライト(見出し)のひとつといっても良いのかもしれませんね。日向っぽくて好きです。『I Will』がうまれる原動力、何がこの作品になったのかとつきつめれば『ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫) 』を読むにソングライターのポールからリンダへの愛か、とシンプルな結着、因果がうかがえます。愛こそすべてだね、最後にはね……。

シンプルで短い曲ですが、エンディングの自由奔放で春爛漫な感じのボーカルハーモニー、上下に道草を食うみたいに揺さぶったかと思えば、返しのラインはアクロバティックなほどに滑らかな上行で、最後はトニックの主音を外した短3度に至るフレーズがすべてを物語り、まとめ、まるくおさめているのに余韻・余白を残しもする。こんなにも自然体でかろやかなのに、圧倒的な「力技」「怪力」をも思わせるポールマッカートニーのソングライティングは底も天井も未知体です。

図:The BeatlesI Will』エンディングのボーカルモチーフ。最後は主音を外してトニックの第3音・第5音のハーモニーで筆をとめるところが絶妙に巧い。やさしげなのに大胆、紳士的なのに超強引?。人を虜にする人……を思わせます。こうした対比、振れ幅、ギャップ要素が一見シンプルで流暢にみえるボーカルラインに光るのが、ビートルズ・ソング、特にポール・マッカートニーの作にみる特色のひとつかもしれません。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ザ・ビートルズ(アルバム)

参考Wikipedia>アイ・ウィル

The Beatles(ユニヴァーサル・ミュージック サイト)

『I Will』を収録したThe Beatlesのアルバム『THE BEATLES』(オリジナル発売年:1968)

『ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫) 』(2015年、中央公論新社、里中 哲彦・遠山修司)。私が近年、ビートルズ曲を聴き直すときにいつも手に取るガイドです。著者のおふたりが会話しながら楽曲についての雑学や背景や知識を伝える形式になっている、読み易くビートルズ曲への親しみやすさまでくれる本。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『I Will(The Beatlesの曲)ギター弾き語り』)