ガッツだぜ!!のカップリングがこれですか……エグいですね。このテの(なんて括るのも我ながら安直で気がひけますが)ラブソングをやらせるとトータス松本さんの天性が本領を発揮する感じを覚えます(もちろん彼の天性はこれにとどまらずもっと広いことを強調しておきます)。
エンディングでボーカルとアコギが裸になる構成。ボーカルの消え際の声のかすれ方がエモーショナル。しおらしく、女々しい。私の意図しないところの性差を強調するような言い方として機能してしまうおそれがあるので、使う際に注意が必要になったと感じる言葉の一つが「女々しい」ですが、ときにトータス松本さんの作詞や歌唱の妙味を表現するときに思い浮かぶ単語であるのも私の胸の内の実際です。それは、トータス松本さんがパワフルでソウルフルな、エネルギーある発声で楽曲をぐいぐい引っ張る天性を発揮する数多の傑作の印象を前面に持っていることによって私が感じる落差、ギャップからくるのでしょう。
シンプルなサウンドの構築も大好感です。サウンドの風通しがよく、余白があり、そこに繊細な歌唱のニュアンスを描きこみます。曲のテーマ……平たく言って「失恋」でしょうか。その主題にも、こうしたサウンドの余白が効果的に機能しています。
左右に振ったエレクトリック・ギターがオブリガード。ジャっと鋭くシンプルにアクセントを起きます。Bメロではトレモロのエフェクトをかけているでしょうか、ゆらめく音色を感じます。
ぱつぱつとヌケとシマリの良いスネアに、ボツッと衝突音にキャラのあるバスドラムが気持ちよい刺激です。16分割の単位で、ちょっとハネたり、かと思えばイーブンで演奏したりする振れ幅を感じます。
ベースの音の短い切り方も非常に効果的で、あたたかくファットなトーンと短いキレの対比が気持ちよく、繊細なボーカルの土俵を塩で引き締める印象です(喩えがムリヤリ)。
ふぁーっと感情をあおるオルガンがまた良く、Aメロなどでは消える、出どころをわきまえた仕事ぶり。一方で、ギターソロ以外の間奏ではオルガンがいてくれてこそ成立するほどの重要な役まわりでもあるのを思います。
ギターソロのグアーっと掻き鳴らすトレモロ・ピッキングの導入がアツいですね。これをキレの良い鋭いサウンドで演奏するので感情が揺さぶられます。歪んだエレキギターのチョーク・アップはそれだけで永遠に聴いていたい私のフェチ音です。
手のひらでおさえたアコースティックギターのブリッジ・ミュートの効いたストロークに、歌と添い遂げる表現の柔軟さを覚えます。トータス松本さん自身の演奏でしょうか。
編曲は伊藤銀次さん、あるいはウルフルズとの連名でしょうか。「バンド」を分かってるなぁと思わせるプロデュース、ならびにアレンジだなぁと……私の浅知恵を露呈する浅はかな感慨ですが、90年代のウルフルズを思うとき、伊藤銀次さんが重要な存在であるのを否定するファンはそうそういないでしょう。
“まぐれで きみの心を 射止めたのさ もう忘れるよ ふられるのは 何回目だろう とにかく ふえていく”(『いいたい事はそれだけ』より、作詞:トータス松本)
一度は「心を射止めた」と言うのに足りるような恋愛の様相であったにもかかわらず、ふられてしまう、恋が終わってしまう。恋する心の振れ幅を思わせます。射止めたというからには、相手もこちらのことを本当に好きになってくれたはず。それでも、終わる恋は終わるのです。
「射止める」を、単に「交際するのに至る」ことの比喩と捉えることもできます。付き合ってみたけど、やっぱり私、そこまで本気になれなかった……くらいの心の様相をあてはめることも可能かもしれません。
“まぐれで きみの心を つかんだのさ もう忘れるよ”(『いいたい事はそれだけ』より、作詞:トータス松本)
と2コーラス目にあります。「射止める」に続けて、「つかむ」の表現もあります。やっぱり、相手の気持ちは、主人公のほうに、一度は本当に心から振り向いてくれたものであってほしいと私としては思います。もちろん、本気で振り向いてくれたからこそ、そのぶんふられるダメージも大きくなるのかもしれません。
“あとは電話を切るだけ”とありますから、別れ話が成立するシーンは「電話」だったのでしょうか。「電話」が、会わなくても話を可能にするツールです。電話のあとにはメール、ラインといったツールがのちの時代に続くでしょう。話をしなければ、自然消滅だった。でも、電話とか、メールとか、ラインといったツールがあるから、その「関係消滅の確認」を可能にした……そういう恋愛も世には多く存在し、消えていったかもしれません。『いいたい事はそれだけ』の恋愛はどうだったのでしょう。これも、電話があったから、電話によって、「関係の消滅」を確認できてしまった恋愛だったのでしょうか。それを否定する・肯定するほどの情報量は、歌詞のテキスト面においては確認するのは難しそうです。そうした余白が『いいたい事はそれだけ』の魅力そのものであることを言い添えておきます。
青沼詩郎
『いいたい事はそれだけ』を収録したウルフルズのラブソング・ベスト『Stupid & honest』(1999)
『いいたい事はそれだけ』を収録したウルフルズのシングル『ガッツだぜ!!』(1995)
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『いいたい事はそれだけ(ウルフルズの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)
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