I’m a Loser The Beatles 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲: Lennon-McCartney。The Beatlesのアルバム『Beatles for Sale』(1964)に収録。
The Beatles I’m a Loserを聴く
さらっとまなざしの鋭いビートリー。
負け犬……直訳で「敗者」を主題にしています。自分もリスナーもいつでもそうなりうる。綱渡りの人生であるのをさらっと指摘してみせるウィットを感じます。ボブ・ディランに影響を受けている時期に書かれた歌だとか。
ハーモニカのサウンドがセブンスの響きを強調します。Gキーの曲ですが、ナチュラルFのトーンが出てきます。Cキーのハーモニカを使ったのかもしれないなと思います。テンホールズハーモニカの許すギリギリまで低い音域に急降下させるようなプレイです。
ヴァースのボーカルもかなり低いところまで音域が落ちるメロディが独特です。おれもおまえも油断してると「堕ちる」ぞ……という箴言の表現でしょうか。深読み(深くもない?)を誘うビートルズの音楽が好きです。
ヴァースの基本のコード進行がG→Dm→F→G。下属調系のコードを大胆につかって基本パターンを組んでいます。GキーならスリーコードはG、C、Dですが、そう安易には甲虫問屋が卸しません(もちろん3コードは雄弁であり作曲の基本であり必要十分である点も言い添えておきます)。コード進行からして、主音から短七度、すなわちこの曲のキーではナチュラルFの音を強調するようなものになっているのです。くすんで乾いた感じのする独特のビートルズのシズル感(それらしさ)をひとつ解き明かすならば、このセブンスの響かせ方の特徴にあると思います。
アコギをストラミングしていて基本のリズムを敷いています。エレキギターは12弦のギターが含まれているのか、音波がうねるような独特の響き、弦と弦のチューニングのわずかな差異が放つのか、コーラスのエフェクトペダルのような効果を感じさせます。
ビートルズリスニングの例にもれず極端な定位で、まんなかにボーカル、左にドラムとベースとエレキギターのうちひとつ。右にリードとオブリのエレキでしょうか。この右に振ってあるのがジョージの演奏かなと想像します。コンプでバビョーンとサスティンが伸びる感じのサウンドです。名器エフェクター「ダイナコンプ」っぽいサウンドだなとも思いますが実際に用いられている装備はどんなものでしょうか。
右にはチキチキとタンバリンの刻み。ビートルズサウンドの必勝パターンのひとつでしょう、要所で細かい分割のブライトな響きをタンバリンが担います。
先に触れましたがボブ・ディランの影響を唱える評論があるようですが、ただのハーモニカandフォークギターandスリーフィンガーみたいな虚無な様式コピーには決して堕ちない甲虫印を感じます。シングルの様な独立した存在感があったり、明らかにそのアルバムを象徴するリードナンバーっぽかったりするわけではないのですが、ビートルズらしさ(特に初期から中期にかけての)を点でなく面で全押しするような、培い身につけた技と磨いた反射神経、視点の裏をかく思考のバランスの結実を感じます。
おおげさな賞賛を冷笑して聞き流すようなさらっとした態度が似合いそうですが、一朝一夕では至れないタイプの楽曲に思えます。私が言うなって感じですが、「君らも“ビートルズ”が板についたね!」と上から目線で偉そうに言ってみたくなる妙味があります。
アルバム『Beatles for Sale』の2曲目で、まだまだこれからいく予感です。フェードアウトの処理ですし、ライブだったらどうシメるのかな。
青沼詩郎
The Beatles ユニバーサルミュージックジャパンサイトへのリンク
『I’m a Loser』を収録したThe Beatlesのアルバム『Beatles for Sale』(1964)
参考書
『ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫)』(2015)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『I’m a Loser(The Beatlesの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)