今すぐ Kiss Me LINDBERG 曲の名義、発表の概要
作詞:朝野深雪、作曲:平川達也、編曲:井上龍仁。LINDBERGのシングル、アルバム『LINDBERG Ⅲ』(1990)に収録。
LINDBERG 今すぐ Kiss Meを聴く
わずかなザラつきや一瞬のギスギスしたささくれが刺さります、疾走する渡瀬マキさんのボーカル。直線的かつ撥ね返りの強いマインド、発声によってすべてのバンドメンバーと対等に殴り合うような勇ましさを覚えます。
基本、オリジナルバンドメンバーの頭数に合った等身大のバンドのサウンドの様相です。たとえば私が偏執的に好んで聴いている1950~1970年代くらいの歌謡曲のサウンドは管・弦・打楽器にベーシックリズム等をひと通りそなえた様式をしているものも多いですが、改めて80年代後期を象徴するモデルのひとつたるLINDBERGのサウンドを聴くと、音数が少なくてシンプルな印象を抱きます。
オリジナルメンバーの数以上に含められているパートがあるとすればキーボードやシンセの類でしょうか。ストリングスのサウンドはキーボーディストの仕事にあたるでしょう。チャイムのようなアタックにストリングスのサスティンが尾ひれをつけます。カラオケでこういうサウンドに数多親しんだ人も多いのではないでしょうか(特に80年代後期に青春を過ごした世代がそれに当たるかと想像)。減衰系の音を発するベーシック楽器が及ばない、空間に滞留する響きをシンセ・キーボードの類がはんなりと添えます。
エレキギターが押し出す快活なテンポのエイトビート。所にアクセントをつけるドライな音で快活に刻みます。金属的なエッジにコーラスの広がりを与えた感じのオブリガードがサウンドのカーテンを引き、年代特有のサウンドを思わせます。イントロはサビの「今すぐKiss Me」のボーカルフレーズをトレースするオクターブ奏法のリードギターで、サビの真っすぐな音楽性を伝えます。
ドカドカとしたドラムスは打面の張力をややルーズにチューンしたようなオープンで重心の低い味わいがあり、ベースもそれとコスチュームを揃えて地面の近くを這うような低空飛行のスリル感があります。ドラムスの重心は低いサウンドなのですが、プシャーンとはじけるようなシンバルを効果的に使いますし密な手数とタムのルーズな響きの対比で魅せます。
ギターソロに入るときのⅥmからⅦ♭コードへの進行がスパイシイです(Eメージャー調ですので、Ⅵm→Ⅶ♭はC#m→Dです)。調の外の響きが支配するDコードはたった2小節。まるでDを主音にした琉球音階のような音選びのギターソロなので、サイズが短くても聴き心地に強い清涼感、リフレッシュ効果をもたらします。
歌詞
“歩道橋の上から 見かけた皮ジャンに
息切らし駆け寄った 人混みの中
ドキドキすること やめられない”
(LINDBERG『今すぐ Kiss Me』より、作詞:朝野深雪)
シンプルで情報量も絞った歌詞ですが、端的に心と体の動き、アティテュードががよく表れたラインです。主人公は好奇心がある。強めの磁石みたいな人なのかもしれません。
“スピン気味のセリフに ブレーキはNo Thank You
身に付けた変化球も きょうはBye Bye
ドキドキすること やめられない”
(LINDBERG『今すぐ Kiss Me』より、作詞:朝野深雪)
自分をコントロールしきる理性や感情の抑制術を持つ「不動の人」(動じない人)がいるとすれば、主人公はその対極かもしれません。「攻めは最大の防御である」。こんな信条があるとすれば、主人公の持つそれと比較的近いかもしれません。変化球で相手をほんろうできても、相手のほうんろうには弱い、極端な一面のある人物を想像します。
“今すぐ Kiss Me Woo
Go Away I Miss You
大好きだから 笑ってヨ”
(LINDBERG『今すぐ Kiss Me』より、作詞:朝野深雪)
「Go away」はそれだけですと「あっち行ってよ!」といった命令形の意味になるでしょう。「I Miss You」は「さびしい」「恋しい」といったものです。馬鹿正直に字面を受け取ると、あなたにいてほしいのか、目の前から消えてほしいのかグラグラで精神分裂気味な文字列に思えてしまいます。なんらかの省略が利いていると仮定して字間を含めて解釈すれば、シンプルに「あなたがいないと私はさびしい」という因果の読み筋を見出せます。
習得した変化球もブレーキもお呼びでなく、結論は純朴なほとばしる想い、その疾走感にあるのです。さながら、想いの矛先に最速でひっつく磁石のようなのです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>今すぐ Kiss Me ,LINDBERG Ⅲ(アルバム)
『今すぐ Kiss Me』を収録したLINDBERGのアルバム『LINDBERG Ⅲ』(1990)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『今すぐKiss Me(LINDBERGの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)