ジェニーはご機嫌ななめ ジューシィ・フルーツ 曲の名義、発表の概要
作詞:沖山優司、作曲:近田春夫。ジューシィ・フルーツのシングル、アルバム『Drink!』(1980)に収録。
ジューシィ・フルーツ ジェニーはご機嫌ななめを聴く
テクノ歌謡というジャンルで語られる筆頭株な気がしますが、あらためて集中して聴いてみるに、ちゃんと“バンド”だなという気がします。なんだか軽く見ていたような言い方で失礼かもしれませんが、自分たちで楽器を演奏する集団としての「バンド」というよりもなんとなく、メンバーが楽器の演奏に精通することを必ずしも意味しない「グループ」というイメージでいたのです(不覚で恐縮です)。
とまぁ、音楽好き・バンド好き・アレンジ(編曲)好きの私としてはそうしたサウンド全体面への関心が表出してしまいますがやはり、このへろへろでくすぐったく甘く風で飛ばされる羽根のような……フェザータッチのボーカルが表層の印象として輝きます。
軽い質感であるからこそ、こっち(聴き手)に耳をそばだたせるのです。これがもし、オラオラ!私を聴け!というような、大歌手然として輝かしく生声で300メートル先にいる人にでも届かせてみせるぜという質量の歌だったら印象はまるで違うでしょう(なんの歌でもそんな極端な例をあてればそりゃそうだろうけど)。
自分がすべてを一人でまかなえる強くて自律した人格ではないのを自覚し、相手を誘導し、エスコートさせ、甘えを受容させる。抱っこさせてあらゆる場所に連れて行かせ、あらゆる願いをかなえさせる。赤ちゃんの姿をした黒幕みたいな。コナン君でもそこまで若返らないぞ!(喩えにバグ)
ブッブッブッブッブッブッブッブ……と短く切ったベースがエイトビートをまっすぐ奏でます。ドラムトラックも基本リズム自体ごくシンプルです。ハイハットのダイナミクスのバランス感が気持ち良い。
右にカチカチと細かく乾いた音色ではじけるみたいなミュートのきいたエレキギター。左にもエレキギター、こちらは右と比べると低域寄りでしょうか。
シンセのサウンドなのか、右左の定位をフラフラするパートがいるように感じます。恋愛のフラフラうわついた気持ちや関係の揺らぎを象徴して思えます。
バックグラウンドボーカルがまた私の気を引きます。なんのフレーズを唱えているの? 「マッシュマリマリ……」って聴こえるんですケド。マッシュルームヘアのマリちゃんのことかな? んなアホな……(違いますよね?)
“そうすれば とにかく 少しは気がおさまるの”(『ジェニーはご機嫌ななめ』より、作詞:沖山優司)
「少し」などという副詞は、まず削れないか、似たような音数や韻を持つほかにもっと良い単語がないか検討します。余計な副詞の言い換えや削除は、作詞上のブラッシュアップのポイントだと私は思っています。
でも、その副詞があることで独特の余韻が生まれるのであれば、それは「いい副詞」です。
ここでは、「抱き合って眠りさえすれば少しは気がおさまるの」というような意味合いの文の構造になっています。
それくらいしてくれなきゃ、私はふらふらどっか行っちゃうかもしれないぞ! すねちゃうかもよ?! そしたらあんたはきっとあわあわして困るんでしょ? だから抱きしめてないとダメだぞ!
……はあ。書いていてため息をつきたくなるような甘々のイチャラブじゃないですか。
スネちゃうを予感させる含蓄が「少しは」の副詞が演出するのです。これはいい副詞。
青沼詩郎
参考Wikipedia>ジェニーはご機嫌ななめ、ジューシィ・フルーツ
ジューシィ・フルーツのオリジナルメンバー・柴矢俊彦さんは『おさかな天国』の作曲者。
『ジェニーはご機嫌ななめ』を収録したジューシィ・フルーツのアルバム『Drink!』(1980)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ジェニーはご機嫌ななめ(ジューシィ・フルーツの曲)ギター弾き語り』)