デニムの経年変化に見出す輝き
10年ごとに区切る人生それぞれの時期を回顧し、あるいは見通し、それを四季の経過と重ねてもいるようなわびさびがあります。それらすべての時期、人生の時代を受け入れ、酸いも甘いも笑いとエネルギーにして噛み締め、祝福し、肩を抱くような慈しみ、懐の深さが、ずっとこの歌をかばんに入れて長い旅をして行きたいと思わせるような親身さがこの曲の恒久な魅力だと思います。誰か特定の人へ贈るようなイメージで作曲したのか、あるいは、この曲をしたためる当時にご自身も50代であったであろう竹内さんが自身へ寄せた激励だったと考えてもそれはそれでグっと来るものがあります。
“君のデニムの青が 褪せてゆくほど 味わい増すように 長い旅路の果てに 輝く何かが 誰にでもあるさ”(『人生の扉』より、作詞・作曲:竹内まりや)
デニムの青とその経年変化をモチーフとして扱うことで、おのれの肉体と精神を使い込むことにともなって露わになる、ありのままの風体を肯定し、そこに輝きを見出す眼差しが慈愛に満ちています。この楽曲『人生の扉』が収録したアルバム『Denim』のタイトルコールでもあり、12曲入りのアルバムの12曲目として最後をしめくくる……あるいは未来を望む形で始発駅たらしめるアルバム構成にしても素晴らしい職能を感じます。
人生の扉 竹内まりや 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:竹内まりや。竹内まりやのアルバム『Denim』(2007)に収録。シングル『チャンスの前髪/人生の扉』(2007)としてシングルカット。
竹内まりや 人生の扉(アルバム『Denim』収録)を聴く
終始、音が豊かで満たされています。ドッキリするようなブレイクや、サウンド面でのギクシャクするような起伏は排除されており、ずっと満たされた音の湯ぶねに浸かっているような気持ちです。アルバムの最後の曲なので、カーテンコールみたいな趣があります。20代、30代、40代のあなたにブラボー。どうもありがとう。50代。60代。70。80代、90代のあなた。これからもよろしく、そして旅は続くよ、と。
音の満たされた安定感があるので、聴きながらいろんなことが思考をめぐります。音に情報量も解像度もあるのに、だからこそなのか、私の脳内が勝手に旅を始めるのです。
カフェにいると、環境音がほどよく気持ち良いとか。あと、赤ちゃんにヘビメタを聴かせると寝はじめるだとかそんな風聞と関係あるかわかりませんが、満たされている安定感こそがかえって背景に回るという現象が起きるように思います。
イントロは前面で絢爛なピアノ。曲が進むと音量バランス的に奥のほうにいたりします。どこまでミックスによる演出で、どこまで演奏自体のダイナミクスの見せ方なのか。
「満開の桜や」……と歌うときの「まぁぁん……」という歌のふしの当て方がたっぷりで特徴があり、いかにも「満開の桜」という感じがしますね。細かいところですが……ここのところを歌ったあたりで、上記のピアノの前後のあるメリハリが薫ってくるのです。
ベースの音がぶりぶりとかっこいいな。エンディングでバックグラウンドボーカルがぱっと音をのばすのをやめて、それからピアノのサスティンが長く長く、名残惜しむみたいに残ります。オープニングを華やかしたピアノで、結尾もしめるのです。ピアノって、一番近くにいて親身な楽器でもあるし、一番のステージのハナでもあるし、リズムもメロディもハーモニーもどれにもまわれるしどれをも兼任できるマルチタスカーだと改めて思います。まるで人生だね。
青沼詩郎
『人生の扉』を収録した竹内まりやのアルバム『Denim』(2007)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】全て含めて良かった『人生の扉(竹内まりやの曲)』ギター弾き語り』)