旅、家庭、音楽の再出発

12月8日(1980年)はジョン・レノンの命日。

ちーん……と鳴るベル、残響のキャラクターが印象的なボーカルの歌い出し。『(Just Like) Starting Over』を聴くと年末をしみじみ思うのは私だけでしょうか。

主夫活動をしていたジョン・レノンがオノ・ヨーコと共同名義で1980年に発表したアルバムの収録曲です。

この作品の発表に至る前に、その背景にはいくつかの旅の存在があるようです。アルバムタイトルのダブル・ファンタジーというのも、旅先として訪れたバミューダの植物園で見た新種の花の名前に由来するそうです。この年(1980)にジョンがミュージシャン・アーティストとして動きだすきっかけになったのも、息子さん(ショーン)に自分がビートルズであることが認知されたエピソードにあるともいいます。

(Just Like) Starting Overはトリプレットのビートに乗った表現豊かなジョンのボーカルがみものです。リズムの緩急が聴きつつも、華やかなのになめらかに繋がったボーカルライン、メロディの動きもリスナーを惹きつけてやまない、キャッチーなこの曲の魅力です。

(Just Like) Starting Over John Lennon 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:John Lennon。 John Lennon and Yoko Onoのシングル、アルバム『Double Fantasy』(1980)。

John Lennon (Just Like) Starting Over(アルバム『Double Fantasy』収録)を聴く

ビートルズなど聴いていると、ドラムが左右のどっちかに寄っていたり、リードボーカルも左右どっちかに寄っていたりと時代相応のトンデモ定位(あえて強めに言わせていただきました)に出会うことが多いです。一方1980年のこちらのジョンのソロ作品、スターティング・オーヴァーはもう完全に近年の大衆音楽らしい定位の感覚をみにつけています。ボーカル、ドラムはおおむねセンター。ばらり〜ん、と左右に開いたギターのアルペジオのオープニングの左右のバランスが非常に良好です。ボーカルにかかったリバーブの長さ、濃くて白い霧のような質感が極上です。ジョンのボーカルがときどきエルヴィス・プレスリーを思わせるみたいにドスっと低い響きを聞かせたり、エンディングではアァとかアゥとかファルセットっぽい声で喘いだり……そうした些細な点は両極端ですが、歌詞本編についても歌唱が実に表情豊かです。表現のための技巧を感じるんですね。

センターに位置したスネアのサウンドがでかい。爆発するみたいに一発一発がとどろいています。このアクセントがこの楽曲のトリプレットのビートを、ただの甘美なミドルテンポバラードではなく、ロックとしてメリハリのある聞き応えにしてくれています。私がミキシング担当なら怖気付いてここまでスネアの音量を上げるミックスはできないかもしれません。

ウワアーとバックグラウンドボーカルが常に帯同しますが、コーラスのエフェクトをかけたかロータリースピーカーをとおしたみたいに、なんだかしゅわしゅわとなじんでいて、うまくリードボーカルやベーシックリズムのすこし後ろの空間に行っている感じがまた聴いていて心地よいです。

ボーカルやドラムはウェットな印象ですが、こんこんと降り注ぐピアノのダウンストロークはドライできれの良いかんじ。この楽曲の性格にはずむような軽いニュアンスを演出します。

主夫活動もっぱらだった生活から出てきて、再出発する……

歌のなかの世界とそのアーティストの実生活がかならずしも一致している必要はありませんが、それが伴ったときの爆発力、名曲としての耐久力は時代を超える強さを備えます。(Just Like) Starting Overも間違いなくそうした傑作のひとつです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ダブル・ファンタジースターティング・オーヴァー

参考歌詞掲載サイト 世界の民謡・童謡>(Just Like)Starting Over 歌詞と和訳 ジョン・レノンが亡くなる直前に発表されたソロ最大のヒット曲 この曲をよくテレビのバラエティ番組で耳にしたのですが、番組名が明かされています。『マツコ&有吉の怒り新党』でした。

JOHN LENNON.へのリンク

『(Just Like) Starting Over』を収録したJohn Lennon and Yoko Onoのアルバム『Double Fantasy』(1980)