まえがき
“今度悲しみが来ても 友達迎える様に微笑うわ きっと約束よ”(『悲しみよこんにちは』より、作詞:森雪之丞)と、ひたむきで純真な励ましの思念が斉藤由貴さんのイノセントな歌声、武部聡志さんの明るく切なくはじけるサウンドに憑依します。
悲しみよこんにちは 斉藤由貴 曲の名義、発表の概要
作詞:森雪之丞、作曲:玉置浩二。編曲:武部聡志。斉藤由貴のシングル、アルバム『チャイム』(1986)に収録。テレビアニメ『めぞん一刻』オープニングテーマ。
斉藤由貴 悲しみよこんにちは(アルバム『チャイム』収録)を聴く
ピュアな励ましの思念を強く感じるのです。これに、私はつい作曲者の玉置浩二さんの後年のスマッシュヒット『田園』を重ね合わせて見てしまいます。
かの『田園』も、「悲しみ」といった逆境をはねのけて、あるいはそれはそれとして身に降りかかる致し方のないものと認めてただひたすら全力で走り抜けるしかない……という、厳しくも熱い想いが感じられるからです。
”生きていくんだ それでいいんだ ビルに飲み込まれ 街にはじかれて それでも その手を 離さないで 僕がいるんだ みんないるんだ 愛はここにある 君はどこへもいけない”(『田園』より、作詞:玉置浩二・須藤晃)
『田園』には甘い言葉による励ましだけでない、厳しさも認める平静さも感じます。その点が『悲しみよこんにちは』の未来を想像させる、一歩進んだ通過点に思えます。『悲しみよこんにちは』には、斉藤由貴さんというイノセントで純白な人格を憑依させたアイドル(偶像)が発する通りの澄み渡る透明性を覚えます。
『悲しみよこんにちは』という作歴が、後年の玉置さんの作『田園』に与えた影響って、潜在的にだとしても必ずしやあるものと私は勝手に合点した気分になっています。もちろんどんな作家だって前歴と最新作の関係は断てる(絶てる)はずもないのです。すべてが因果して応報するのが世の真理であり物理だと私は思うからです。
『悲しみよこんにちは』の編曲者は武部聡志さん。シンセサイザーをもちいた音作りが印象的で、かがやき、すみわたり、清涼感を芳醇に備えてリスナーを包み、通り抜けます。
シンセベースのまっすぐなビートがあるので、ハイハットであまりエイトの分割をちくちく出す必要がありません。そのためにチキチッ!といった、エフェクティブなモチーフのためにハイハットをつかう自由が生まれています。
イントロのなにかはじまるようなわくわくは、主音のベースの安定感のうえで和声が変化する設計によるものと一聴したときは思ったのですが、ヘッドフォンで両耳で聴いてみると、左右それぞれにスネアドラムのパラパラと降り注ぐような16分割がそびえていて、ワサワサと響き線のサウンドがこのわくわく感の演出に一役買っていると気づきます。
Ⅰの和音からベースが下行していく鉄板なAメロの進行。Ⅱmから入る、Bメロで変化を出して、Ⅳから入るサビで疾走感を出す和声の設計もバチっとはまっています。同音連打を多用して前に前に推力への求心を思わせる、しかし上下にも躍動するボーカルメロディがひたむきでがんばっていて応援したくなるのです。
途中で12/8拍子ぽくなったり、エンディングに至って初めて出す意外なコード進行で揺さぶるなど、予定調和的に楽曲をフレームしきるつもりも毛頭ない、何がおこるかわからない世の中に対する希望的な挑戦心ある態度が主題の『悲しみよこんにちは』に正面から挑んでいます。この純真さが多くのリスナーにこの楽曲がフィットする普遍性の秘訣だと思います。
青沼詩郎
参考Wikipedia>悲しみよこんにちは (斉藤由貴の曲)
斉藤由貴40th Anniversary Site | SPECIAL SITEへのリンク
『悲しみよこんにちは』を収録した斉藤由貴のアルバム『チャイム』(1986)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】 友達を迎えるように 悲しみよこんにちは(斉藤由貴の曲)ギター弾き語り』)