カラス THE COLLECTORS 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:加藤ひさし。THE COLLECTORSのアルバム『MIGHTY BLOW』(1996)に収録。
カラス THE COLLECTORS カラス(アルバム『MIGHTY BLOW』収録)を聴く
遠距離恋愛をふんだんに思わせる描写です。
遊びつかれひとり 夜明けの帰り道 「おかえり」と君の声
留守電の声 くりかえし聞いた
会いに行けないほど 遠く離れたふたり 強がりも歯が立たない
君が恋しくて 涙あふれた
『カラス』より、作詞:加藤ひさし
君にどはまりしている主人公が可愛い。留守電の声を繰り返し聴いてしまうのです。
スマホやらLINEやらのない時代であれば、留守電の声は貴重な相手の情報、痕跡です。なんだかそれもそれでいい時代だな……たとえば今、LINE通話をためして相手がアプリに応答しなかったら、そのままつづけて「○×(の用件)でかけました」という主旨を短く簡潔な文章を添えて相手の返信を待つことができます。そう、そもそも留守電を入れるという件(必要)が少なくなったのです。
いくらか社会に開いた位置付けの連絡のやりとりだったら、まだ使う機会があるかもしれません。たとえば仕事の必要があって、一般的にはやや手に入りにくい珍しいものをそれに特化したメーカーさんに発注した。それが入荷したよ!という連絡のやりとりなんかをするとき、現代でも「留守電」が活躍する印象を私は持っています。でも、パーソナルなつながりを持った関係……端的にいってしまえば恋人だとか家族とのやりとりで留守電を使った記憶がないです。LINEにも留守電機能があればいいのにね(ある? ないですよね?※)。
※トークのスレッドでボイスメモを簡単に送れるのでそもそも留守電なんてものが必要ないようです。
今すぐ会いたい 熱い思いがあふれてく
むらさきの夜明け 滲んで見えるよ baby
Oh! my love おやすみ good night!
『カラス』より、作詞:加藤ひさし
そのまま、会えないけれど留守電に残された声に愛着を抱いたりしているうちに夜明けにむかって時間が進んでしまいます。遊び歩いて帰ったのでそもそも時間が遅く、すでに夜明けが近かったのかもしれません。胸の内で、君に向かっておやすみをとなえ、己の君に対する愛情を確かめます。胸キュンな、純愛の歌じゃないですか。
メロディがきれいです。コードの進行もそれと機能しあって、起伏や緩急をなします。ヴァースで主和音から増5度の響きになるところなんて音楽的に気が効いていますね。コーラス(サビ)はカノン進行にもよく似た鉄板パターンです。
『世界を止めて』『僕は恐竜』などを鑑賞しても思うのですが、加藤ひさしさんの歌唱はアクロバティックでカリスマです。『カラス』は、前に挙げた2曲に比べるとまだ平穏でやさしい範囲におさまったメロディや音域かもしれませんが、コーラスのはなばなしく堂々とした歌唱の響きが見事です。ダブリングやハーモニーの付加がほとんどないようですがじゅうぶん。彼の声の魅力が脳髄を通って胸に流れ込んできます。ラジオボイス風というのか、アンプやスピーカーを通したような質感で「oh my love」をレスポンスするトラックが込められているのが気が利いています。これだよ。
ギターがこんこんと降り注ぐ、豊かな倍音の響き。チャリチャリとタンバリンが刻みます。ぐもぐもっとした生なましいベースのサウンドが、演奏者の質感をそのまま伝えてくれます。Oasisのバラードっぽいサウンドにも似ますね。あと私の好みでいうとthe pillowsのサウンドも思い出します。とにかく、演奏者が、つまりオリジナルメンバーの数と録音に込められたトラックの数がそう著しく乖離しておらず、エレキギター、ドラム、ベースなどの生の演奏と生の歌唱がバチバチにタイマン張っているバンドの音と歌が私はこの世で最も好きなのです。キモチイイね。
青沼詩郎
加藤ひさしさんと古市コータローさんのポッドキャスト、『池袋交差点24時』が更新されています。
『カラス』を収録したTHE COLLECTORSのアルバム『MIGHTY BLOW』(1996)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『カラス(THE COLLECTORSの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)