歌が強い

どこへ行くも自由……そんなことを思わせる歌の強さにはそれ相応の覚悟・決意、胆力、筋力などが要るでしょう。それらが備わっているのを一聴してリスナーに悟らせます。同時に都会を吹き抜けて、透明になって消えてしまうような儚い抒情も感じます。

流麗で大胆で雄弁なメロディ、それに自然発生し寄り添うような豊かな和声。歌の抒情を汲み、景色に合わせて変化し移ろうバンドの諸パートの語彙、サウンドは必要十分。プロデュースが宮本浩次さん・佐久間正英さん共同名義になっています。バンドメンバーの演奏の隙間をそっと満たし、背中を温めるようなシンセキーボードの音色もまた必要十分。

風に吹かれて エレファントカシマシ 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:宮本浩次。エレファントカシマシのシングル、アルバム『明日に向かって走れ -月夜の歌-』(1997)に収録。

エレファントカシマシ 風に吹かれて(アルバム『明日に向かって走れ -月夜の歌-』収録)を聴く

良い演奏とは、各パートで同じ景色、同じ方向を見据えてそれぞれにエネルギーを燃やすことだとふと思います。苦楽を共にして、幅のある期間を共に駆け抜けてきたバンドは、その共有・共通理解を築くことの面で有利かもしれません。

バンドのパートのそれぞれの語彙が豊かなのに、それでいて同じ方向、何を見せたいかの情景が見えてくる。リスナーにそれに共振させてくれる。それはバンドの音楽の大成功といっていいでしょう(商業的な成功と重なるかどうかは非情なものかもしれませんが)。

ドラムスの語彙が豊かです。表拍を打つダウンストロークのフィールの勇壮なイントロから、ハイハットやライドを入れないベーシックパターン、要所でアクセントするタイトなオープンハイハット、手数の解像度が細密になるフィルイン、夜空に浮かぶようなライドシンバルのスクウェアなレガート、エンディングのマーチング風のトリルを交えたパターン。ベースの目指す音程への装飾的な引っ掛け方や音の止め方の緩急。マイナーコードを背景にした、エレキギターの上行音形一方通行のイントロモチーフは世の厳しさを受容しつつも強く生きる向上心を思わせます。アコースティックギターの音色は分割の解像度と豊かな倍音を出所を絞ってコラージュするかのよう。ドラムがあえて省いているハイハットの役割にアコギのストラミングがフィットするところが巧いです。

リードボーカルの、ハーモニーを入れないサウンドが孤独で、しかし強いのです。孤高というのにふさわしいでしょう。ハーモニーはしていないが、サビ前あたりからサビの最中はうっすらとユニゾンのダブルが感じられます。音程そのものの線は単一で、リバーブ・ディレイの色付けが儚くふわっと奥に向かってやわらかく漂います。

サビでのエレキギターのカウンターメロディが緩急と確かな勇ましさがあり、ボーカルの孤高のキャラクターに必要十分な単位の群像の歩みを描き込むかのようです。

圧倒的な力強さを有していながら、音楽的なバランス感が秀逸です。妬けてしまいますね。惚れます。

サビ前の、歌詞に文字起こしするほどでない「おぉお……」とか「あぁあ……」とかいったボーカルフェイクにもそうした確かさと力強さ、言語媒体の枠を外す自由さのバランス感覚が表れている気がします、些細な点かもしれませんが……。

青沼詩郎

参考Wikipedia>風に吹かれて (エレファントカシマシの曲)明日に向かって走れ-月夜の歌-

参考歌詞サイト 歌ネット>風に吹かれて

エレファントカシマシ 公式サイトへのリンク

宮本浩次オフィシャルサイトへのリンク

『風に吹かれて』を収録したエレファントカシマシのアルバム『明日に向かって走れ -月夜の歌-』(1997)。何もかもがこれから決まるが、方向だけは見据えているかのようなピントのぼけたジャケット写真もアルバムの内容を映しており抒情的です。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】風情と強い覚悟『風に吹かれて(エレファントカシマシの曲)』ギター弾き語り』)