君の顔が好きだ 斉藤和義
作詞・作曲・編曲:斉藤和義。斉藤和義のシングル、アルバム『素敵な匂いの世界』(1994)に収録。
斉藤和義 君の顔が好きだを聴く
絶妙でスパイシー。アルバム『素敵な匂いの世界』に収録されているのにうなずけますし、アルバムを象徴する楽曲だと思えます。
斉藤和義さんといえば全楽器を自分ひとりで演奏するサウンドが定型のひとつだと思います。編曲名義は斉藤和義さんとなっていますがひとり多重録音なのかどうか。いかにもはひとり多重録音っぽくありません。
ブラスが入っています。この存在が大きい。華やかで、ごきげんな「和(輪)」の観念を楽曲に添えます。「君の顔が好きだ」と、ストレートで至極個人的な言葉を提示しているのですが、チームワークを感じさせるのです。大衆音楽として重要な部分でしょう。もちろん、シンガーソングライターがたった一人で個人的なことを個人的なサウンドに乗せて述べる「大衆音楽」も成立しうるでしょうが、それはどこか「大衆音楽」へのカウンターであったりアンチであったりもするのかもしれません。
その点「君の顔が好きだ」は、その一見個人的に思えるメッセージは実に大衆的なものです。ラジオDJとして活躍する三原勇希さんも、夫と“この曲が大好きで熱唱できるという共通項”(JAF Mate Online>私のドライブミュージック ちょっとひどい、けど歌詞に共感。三原勇希が「伝える」ことの意味を考える〈斉藤和義/君の顔が好きだ〉)と述べているくらい。たとえば性別が違っても、この曲を媒介に空気を共有できるのです。
顔というのは、表面の観念でもあります。表面は、ある程度本人の生きる信念やアティテュードが表出したり、表現したり演出したりできる部分です。もちろん、骨格とか顔面のパーツの配置とか、どうにもならない部分もあるのですが、見え方を左右する要素をコントロールできる範疇もそこにはある。
つまり、顔は、生まれ持った不変のものであると同時に、生まれたあとにその人が意思・信条をもってどう生きているかがあらわれる部分でもあるのです。
つまり、『君の顔が好きだ』は、君の生まれ持った要素も、生まれてからあとに君が自分の意思でそのようにした・していることもみんなひっくるめて受け入れ、好意的に迎える最高のラブソングではないですか!!
性格なんてものは僕の頭で 勝手に作りあげりゃいい
『君の顔が好きだ』より、作詞:斉藤和義
と言っており、内面を軽視しているかのようにも解釈しうるかもしれませんが、ここはなんといいますかジョークというか、信頼関係があるからこそ踏み入ることのできる尖った舌さばき(ものいい)だと私は思います。そう、歌詞をリズミカルにかなり突っ込んでいるあたり、『君の顔が好きだ』は音楽的にも饒舌な楽曲といえます。
バンプした(跳ねた)ピアノが印象的です。セブンスのノートをぶつけてブルージーな匂いを爆発させるイントロとエンディング。エンディング付近はドラムスのキックを間断なく恒常的に踏みまくり、緊張感とハイテンションの持続でもって聴きごたえにハイライトをもたらしています。
何気なく絡むギターのスライド(ボトルネックでしょうか)プレイが非常に聡明で巧い。ハーモニックなギターのオブリのサウンドは斉藤和義さんのはんこという感じがします。アコギのスライドと、エレキのスライド両方いる感じでしょうかね。さりげなくライトな味わいもある楽曲ですが、パート数的な豊かさと質量感も持ち合わせています。イントロのピアノリフにしろ、四つうちで重厚に進んで行くビート感があってエッジー、トガってもいるのです。
ラブソングで、かつトガっている。これは相当な芸当です。この楽曲のなかに描かれる二人の仲の確かさを雄弁に物語っています。
青沼詩郎
『君の顔が好きだ』を収録した斉藤和義のアルバム『素敵な匂いの世界』(1994)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『君の顔が好きだ(斉藤和義の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)