ため息が出るほど悩ましい、塩梅の絶妙なすばらしい楽曲です。
Charさんといえばエレキギター……的なイメージが勝手に私の中であります。間奏とエンディングにソロがありますね。輪郭がはっきりしており、太く存在感とコシがあって絶妙なトーンです。
アコースティックギターのストラミングがまた、塩梅が絶妙です。凡庸な私ならついガシガシ弾きすぎてしまう。アップ・ストローク、ウラ拍のタイミングでタイトに、ストロークポイントをごくごく絞ってアクセント。2本くらい、定位をばらつかせたアコースティックギターがいるでしょうか?
アコギにしてもソロのエレキにしても、全体の音楽、楽器編成を俯瞰しておいしい塩梅を重視した、いくら飲んでも酔わない酒豪……ザルのようなクレバーなカッコ良さが光っています。
そうしたアコギ、エレキを含めた編曲全体やサウンドがまた素晴らしい。ストリングスの語彙も豊か。金管もおり華やか。ベースのベーシック・パターンのブロックによる違い。ドラムスの適度な近さやパワー感。ピアノはブルージーなぶつかったトーンをスパイシーに出します。
ディスコ(ダンスミュージック)、歌謡、ポップス、ブルース(R&B)、ロック、ファンク……いろんな遺伝子を感じるのですが(ここまで要素豊かだと、欲張った全部盛りの焦点のぼやけた残念な感じになりかねないのが平凡な表現者の常かもしれませんが)、なんとも独自の艶めき、色っぽさを放つ孤高のオリジナリティを放っています。Charさんの個性のあらわれなのかもしれません。演奏、表現、構成、誘引力……基本スペックが異様に高いのです。私の安っぽい語彙がひれ伏します。なんといっていいのやら。
“うまく行く恋なんて恋じゃない”(『気絶するほど悩ましい』より、作詞:阿久悠)
言ってくれます。確かに。ああでもないこうでもないと、非現実的な妄想をむさぼり、無茶しようとさせるものこそ、「恋」らしいものだと感じます。ヒトを支配してしまう。「恋」はそれ自体独立した観念生物?なのでは? 自分が、ふだんの自分じゃなくさせる。ふりかえってみれば、「おまえ、ちょっとおかしかったよ(異常だったよ)」と、自分自身や友人に言わしめる状態異常が「恋」かもしれません。
“ああまただまされると思いながら ぼくはどんどん堕ちて行く”(『気絶するほど悩ましい』より、作詞:阿久悠)
ここで曲調がメージャーになるんですよね。巧すぎる。恋の突進力に牽引されて、のぼせ、快楽にひたり……その最中を音楽と言葉が見事に表現しています。このメージャーの部分のあとに、上で先に紹介した「うまく行く恋なんて恋じゃない」のフレーズにつながります。曲調も、マイナーに戻るのです。直前のメージャーのところから、視点を高く、いくらかの平静や客観の距離をもって、恋の本質の的を射ます。
すごい精度で、すごいタイト。Charさんはカッコいい。
青沼詩郎
Char主宰レーベル ZICCA RECORDS へのリンク
『CharII have a wine』(オリジナル発売年:1977)。アルバムバージョンの『気絶するほど悩ましい』を収録。
音楽ライターの金澤寿和さんが選曲監修した『Light Mellow Char』(2014)。シングル版の『気絶するほど悩ましい』を収録。
『ゴールデン☆ベスト Char』(2011)。シングル版『気絶するほど悩ましい』を収録。
竹中尚人 Hisato Takenaka
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『気絶するほど悩ましい(Charの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)