MV
屋内、廊下をうろつくカメラ。
メンバーが散在し、歌ったり演奏したりしています。
奥のブラインドのかかった窓には日の丸。
両側に壁があり、空間は狭そうです。奥に光量があります。特定のメンバーの顔が強調されるのを避けたような自然さです。何度も廊下を抜けて、カットを連ねます。
コンピューター・グラフィックを交えているようです。『KNOCKIN’ ON YOUR DOOR』は1995年の曲。これくらいの年代、テレビゲームなどのコンピュータ・グラフィックの表現もどんどん高度になっていった頃ではないでしょうか。モチーフになっている屋内のドアの描写に、ホラーゲームの類を私は思い出します。バイオハザード、サイレントヒル(これらのゲームの初期作品、怖かったなぁ……)。
カメラが横倒しになったり戻ったり。ごく狭いロケーションを巧みにつかって画面を動かします。鍵穴から覗き入るカットも印象的です。
曲のクライマックス:最後のサビに入るときにトビラをノックする描写。音も「ドンドン!」と派手な演出です。曲だけを聴いているとき、爆発音かと思いました。打ち上げ花火か、アクションものの爆破演出のような……映像と一緒だとノックの音の表現であるのがはっきりします。
曲の名義など
作詞・作曲:黒沢健一。L⇔Rのシングル、アルバム『Let me Roll it!』(1995)に収録。
上にリンクしたYouTube概要欄に “L⇔Rの7枚目のシングル。1995年5月3日リリース。 フジテレビ系ドラマ『僕らに愛を!』主題歌。” とあります。L⇔Rのデビューは1991年とのこと。堅実に活動を積み上げ、至ったヒットだったのかもしれません。
L⇔R『KNOCKIN’ ON YOUR DOOR』を聴く
実に多彩な音使いのアレンジです。
エレクトリック・ギターのみにしても目立って3パートあるでしょうか。左にアルペジオっぽくレガートな演奏。右にタイトに音を止めリズムを強調するギター。中央やや右奥あたりにコーラスの効いたトーンでコードをアタマにシャランと置くパート。
ピアノのダウンビートが効いています。ノックを連ねるように拍動を刻みます。
ストリングスが間断ない8分音符ストロークでじわじわと期待感を上げていきます。
ブラスは華やか。チャイムの音が私には冬っぽく響きます。教会を感じるからでしょうか。西洋の音。連想してキリスト教、クリスマス……華やかで、理由もなくちょっとわくわくする響きです。
ふいごで風を送るオルガンのようなパートも聞こえます。このサウンドで思い出すのはザ・ビートルズ『恋を抱きしめよう(We Can Work It Out)』です。
ハーモニウムという楽器のようです(参考:Wikipedia>恋を抱きしめよう)(参考:Wikipedia>ハーモニウム)。
さりげなくて最初気づきませんでしたが、『KNOCKIN’ ON YOUR DOOR』でサビに入るのを煽って演出するように、シタールっぽいトーンも聞こえます。
シタールはインド音楽の主要な音色のひとつだと思います。同時に、『KNOCKIN’ ON YOUR DOOR』ではハーモニウムも頻出する役者です。
びよーーーーーん じぃーーーーーーん
と伸びをみせる、華やかなサウンド。どこか粘りけのある独特のトーン、シタールとハーモニウム。この組み合わせは私にインド音楽の独特な空気感を覚えさせます。
インドの音色をふんだんにとりいれたビートルズのサウンドをL⇔Rメンバーもきっと敬愛したであろうこと、『KNOCKIN’ ON YOUR DOOR』の端端に勝手ながら思います。
L⇔RメンバーがMVで携えていたギターも、リッケンバッカーでした。ビートルズメンバーも使用したことから、リッケンの使用が、ときに彼らへの敬意や憧れの表現の意味合いすら持ち得ます。
間奏のⅢ♭→Ⅰのテンション・コードの響きなど、垢抜けた響きを含めた音づくりは機知に富みます。ビートルズ・フォロワーなら誰でもここまでの個性が獲得できるでしょうか? 抜きん出て音楽に熱心なアティテュードを感じます。
個性あるメロディや歌詞の言葉えらび、その響きや音韻は覚えやすく印象に残ります。大衆歌としてのツボもおさえたオリジナリティです。たとえばサビの「アィム・ノッキン・ノンニョ・ドォァ!」(失礼しました。わざとこう書きました)の響きはクセになるし、鮮やかに刷り込まれます。曲のどアタマをサビにしているところも行き届いた意匠です。
サビ頭の歌詞。「I’m Knockin’ On Your Door」なのですが、たとえばですよ。「あの日のように、どう?」みたいなソラミミを誘います。日本語っぽい響きがあるのです。でもちゃんと洗練された英語にも聴こえます。
「On Your」の部分の、「おんにょ」様の響きが柔和です。「n(ん)」は閉じた発音なのに、聴く人のドアのすきまを開かせるのです。いちど閉じた発音を聴かせることで、「オープン(開いた響き)」をより引き立てるようです。
歌詞の「n(ん)」の柔和さが、歪んだクランチ・ギターやベルなどの金属的な質感、ベース・ドラムスの確かなリズムの骨格、派手なノック音や華やかな弦・管アレンジメントすべてと対比になって引き立て合います。
心のドアを開ける音
音の織りなす面、多くの層が織りなす奥行き。その印象的な様相を、ざっくり渾然一体にとらえて「キャッチー」などと私はつい言ってしまいます。細かくみていくほどに、引っかかるポイントがたくさん見つかります。
「キャッチー」の正体は、丁寧で細やかな模倣、遊び、茶目っ気、純心を原資とした、熱心な音楽表現の積み重ねなのだと思います。
それらが渾然一体となったエネルギーで心のドアを叩けば、爆発音と聴き紛う程のサウンドが生まれるのでしょう。ドアが壊れてノーガードになってしまいそうです。
青沼詩郎
『KNOCKIN’ ON YOUR DOOR』を収録したL⇔Rのアルバム『Let me Roll it!』(1995)。語頭がLとRになるネーミングをコードにしたアルバムをたくさん出している彼ら。
ご笑覧ください 拙演