恋人はワイン色 CHAGE and ASKA

作詞・作曲:飛鳥涼。編曲:西平彰。CHAGE and ASKA(チャゲ&飛鳥)のシングル、アルバム『RHAPSODY』(1988)に収録。

CHAGE and ASKA 恋人はワイン色を聴く

透き通るサウンドが凄い。エンターテイメント音楽としての審美性を保ちながら、突き抜けてアーティスティック。感動しますし痺れます、心底。

ドラマーの手数がさりげなく一癖ふたくせあってニヤリとします。タムタムを4小節や8小節のまとまりの節目ではないところでちょいちょい挟んでくる。ハナのあるドラムスです。チャイナシンバルのような派手な鳴り物をここぞでバシャーンとやる。広い空間を持っているドラマーだと思います。この人の演奏を録るエンジニアが自分だったらと思うとわくわくしますね。エフェクト系のシンバルのために追加で立てたマイクの音カブリが案外オイシいから全体にうっすら混ぜとくか……とか、ドラムトラックひとつとっても妄想が捗ります。

リードボーカルのメロの歌い出しの儚さ、可憐さ。随所で上に重なる字ハモ。グラス、とかビロード、とか、質感を想起させるモチーフが歌詞としても随所に登場しますが、サウンドや演奏・歌唱の音色面からも多彩なテクスチャが込められています。私はまるで万華鏡を静かにくるくるやって1人ときめく子供の気持ちです。

短く切った恒常的なベースのエイトビートのうえで、シンセだかエレピだかの音色、空間系やゆらぎ系のエフェクトがかかった硬質なエレキギターの響きがしゃらりと輝かしく哀愁めいて溶け込みます。

端正でささくれのないまろやかなコード進行に思えますが、たとえばサビの歌詞“決まりの場面で”(演奏時間1分25秒あたりなど)のところにⅦ♭の和音を放り込みます(A♭キーにおけるG♭コード)。

Ⅶ♭のコード自体は珍しくありませんが、カノン進行的にⅠから順次ベースが下がって来て、Ⅳまで至ったのち、たとえばⅣ、ⅲ、ⅱ、Ⅴ、Ⅰと解決するのでなく、唐突にⅣからⅦ♭に接続してしまうのがなんとも革新的です。この感覚に痺れるんですよ。

理屈じゃない。感性、感情なのです。でも主観的なそれに酔って、聴衆を振り回しているのでは決してなく、新しいモデルの提唱に成功している、まさに時代の半歩先を体現するという、第一線のエンターテイメント作品の理想・見本そのもの。

『恋人はワイン色』、この主題からしてひどく観念的ですが、その反面実に具体性があります。恋人とワインの色やその匂いの記憶は近いところに格納されていて、それらのモチーフの結びつきはごく自然であると感じる人は世に多いのではないでしょうか。

安易に自分のことを歌うと生々しくなりがちで、万人万様の鑑賞者のフィッティングを拒む結果を招く危惧もあります。『恋人はワイン色』の描写は、基本的には登場人物:「君」の観察の体裁をしています。カメラと被写体の距離感がおしゃれなのです。

また、その距離感が、暗にカメラマン自身:君を観察している(フレーミングしている)主人公自身のパーソナルな経験や思慕をほのめかします。

その儚さと個の尊重に痺れるし、私はウルウルと泣けてくるのです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>恋人はワイン色

CHAGE and ASKA 公式サイトへのリンク

参考歌詞サイト 歌ネット>恋人はワイン色

『恋人はワイン色』を収録したCHAGE and ASKAアルバム『RHAPSODY』(1988)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『恋人はワイン色(CHAGE and ASKAの曲)ピアノ弾き語り』)