陽水構文のロマンティック
映画『かもめ食堂』のエンディングに使われた楽曲『クレイジーラブ』を収録したアルバム『EVERY NIGHT』(1980)の収録曲です。
チャカチャカとアコギのストラミングが悠然とした曲想を表現。ボイーンとのびるベース、乾いたきれの短いコンガ・ボンゴの皮ものの類がリズムを敷きますがドラムレスなので悠然とした水平線のようなゆったり感に縦の釘をさしてしまうような窮屈さがありません。シェーカーやカスタネットも質感の軽さと心地よいリズムを演出します。スティールギター、バックグラウンドボーカルの清涼な響きがまるで夜の宙吊り感。解放的なここちよさが終始漂うバックトラック(オケ)がロマンチックなのです。
ムースコールというコンガの特殊奏法、それからある時代のフォークミュージックに重用されたであろう(五つの赤い風船とか、高田渡さんとかのレパートリーかと記憶しているのですが)オートハープらしきチャリーンと輝かしい音色も感じられ、それらがサウンド面のアクセントになっています。
“Swee——t” と、ながーく単語のなかの音節をのばしたかとおもえばすかさず続く “キャロライン” の部分が極めて短く詰まっており、分散和音的にすばやく下方向に音程が跳躍します。さらっとご本家が歌ってのけますが歌唱がなかなか難しいです。
楽曲でもっとも印象的なフックのある名詞のラインが「Sweet キャロライン」でしょうか。意味としては、キャロラインの甘美さを嘆いているというくらいのことかなと思います。端的ですが、そのキャロラインの甘美さとはどのようなものかを音楽の質感自体がリスナーに想像させる趣向になっており、みなまでなんでもかんでも歌詞で説明するものでは決してありません。余白が気持ちよさなのです。
“心が” と歌われる1ヴァース目の部分に2ヴァース目で “ところが” の接続詞が選ばれ、押韻の言葉遊びが感じられます。
また2ヴァース目に “心がブロークンハート” というラインがありますが、「心」と「ハート」が意味の重複をなしているおかしみ、小さくツッコミを誘う「小ボケ」みたいな妙味があります。「はじめてのファーストアルバム」みたいな感じでしょうか。
これには井上さんの傑作の例として、『リバーサイドホテル』の一節、“部屋のドアは金属のメタルで” を思い出します。「陽水構文」とでも称える意図でミームを謹呈したい思いです。
ロマンティックな曲想のなかにもそうした井上さんらしい突っ込むも自由、穏やかな心で聞き流すも自由といった博い楽しみ方を誘う器の大きさが感じられる妙作です。
答えはUNDERSTAND 井上陽水 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:井上陽水、編曲:井上鑑。井上陽水のシングル『Bright Eyes』B面、アルバム『EVERY NIGHT』(1980)に収録。
井上陽水 答えはUNDERSTAND(アルバム『EVERY NIGHT』収録)を聴く
単一のトラックの井上さんの歌唱の描線が輝かしく高貴です。
右にあたたかいヌケのコンガがいて、左に甲高いボンゴがいて定位が開いており、真ん中の広さを引き立てます。
左寄りのアコギは12弦なのか、オートハープなどの音色と相まって絢爛な空気に与します。
シェーカーやカスタネットの発語の瞬間が絞ってあって、恒常的に刻むのでなくスポットに効果を添える、間隔のひらいた「波」を思わせる使い方がゆったりとした心地よさの一因です。
ベースのストロークの少なさと音色の伸びも特長です。フレットのあるベースかもしれませんが、フレットレスベースを用いても好相性を発揮しそうに思える、そんな悠然とした曲調を支えるのがこのベースのゆったりしたプレイでしょう。
エンディングでボンゴ・コンガとカスタネットが残るところがいいですね。主人公はフレームアウトしてしまって、夜のぽっかりとした背景描写だけが残される哀愁を感じるエンディングです。
青沼詩郎
井上陽水 オフィシャルサイト [ Yosui Inoue Official Site ]へのリンク
『答えはUNDERSTAND』を収録した井上陽水のアルバム『EVERY NIGHT』(1980)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『答えはUNDERSTAND(井上陽水の曲)陽水構文のロマンティック【ギター弾き語り・寸評つき】』)