間奏明けに真のサビ

青春時代のコピバンの語り草の定番。もはや殿堂入りです。

アルバムバージョンを聴きました。スペクタクルかつ純白な印象のストリングスのイントロデュース。次いで、コーラスあるいは空間系のエフェクトが印象的なエレキギターのアルペジオのセカンドイントロ、そして英語詞のボーカルが入ってきて、それらを経てこの楽曲の主たるイメージ、激しさや速さの印象の本体が始まります。

一糸乱れず、間断なく、音を、打撃をまっしぐらに並べ、敷き詰めます。鋭くハーモニックなリードギターがボーカルと入れ違いながらドラム・ベース・リズムギターの地盤を横切り、通り抜けていきます。

A♭マイナーの調性はギター類を半音下げチューニングにした響きを活かしたものでしょうか。ライブ時のパフォーマンスはイントロデュースをAmキーでピアノとともにパフォーマンスし、その場で楽器を持ち替えて本編(バンドイン)に突入する際にA♭マイナーのオリジナルキーになる、といったアレンジも見受けられるようです。

ストリングスにアルペジオと複数の段階を経てのバンドインに辿り着くのにサイズを割いており長大悠久な印象を私にくれます。構造やコード進行についてみると、ヴァースやコーラスといった基本的な部分はシンプルです。

ドラマティックなのが間奏で、調性やコード進行にさまざまな波乱が起きています。ヴァースやコーラスはシンプルな本曲における見せ場、ハイライトといっていいかもしれません。

長い間奏が明けると、「紅に染まったこの俺を」とこの楽曲の主題をあらわにするコーラスがあらわれます。前半の「お前は走り出す」や「All of you in my memory」の部分は一種類目のサビ:ファーストコーラスで、間奏を経たのちにあらわれる「紅に染まった……」の部分こそが本当のサビ、あるいはセカンドコーラスといった具合でしょうか。用いているコードの種類自体は前半部と後半部でそれほど違いはないのですが、後半部のコーラス「紅に染まった」……はトニックすなわちA♭mはじまりのコード展開になっており堂々とした印象が前半部のサビ「お前は走り出す」の部分とのキャラクターの違い、対比が際立っておりカタルシス感溢れます。

バンドならびにメンバーそれぞれの心技体、時代や社会、機運の波が複雑に影響し合って現れる奇跡の模様が、傑出したアイデンティティを私に知らしめます。

紅 -KURENAI- X JAPAN 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:YOSHIKI。Xのシングル、アルバム『BLUE BLOOD』(1989)に収録。

X JAPAN 紅 -KURENAI-(アルバム『BLUE BLOOD』収録)を聴く

激情の嵐です。サービス精神が旺盛すぎやしませんか。ステレオの器の限界を突破してます。

イントロの悲しみの海に力なく浮かんだみたいな儚いボーカルから一転。バンドイン後の絶唱。声色の張り詰め感。ハイトーンぶりがどれくらいかというと上のE♭に届く音程の、くーれない、に「そ」ーまったの「そ」の部分。

イントロのストリングスの定位は左から右に向かって高音パート→低音パートと布陣しており、オーケストラのコンサートを客席で鑑賞する際と自然に一致する定位になっています。

セカンドイントロのエレキギターのアルペジオ。空間系のエフェクトの色付けのあるキャラクターのイメージがありましたが、手持ちのヘッドフォンで聴くと非常にプレーンでクリーンな音色のきらびやかさ、澄み渡る透明感が堪能できました。音色の印象って、つくづく聴く環境で変化するものです。

バンドイン後の前半のTOSHIさんの歌唱の鋭さ、音像の輪郭も迫力と解像度に満ちています。

バンドインしてからは、基本「バイテン」(倍のテンポ)のベーシックパターンです。ツインペダルで演奏するのみ。ドコドコドコドコ……と16分音符のバスドラム(「バイテン」(倍のテンポ)ではなくこれがデフォルトだと解釈すれば8分音符のバスドラなのですけれどね)。地面そのものが浮遊して天に届きそう。ライドシンバルを8分音符(非バイテン換算)で恒常的に浮かべる、ベーシックパート、アクセントをつけながらタムの類で臨場感を醸すところ。起伏に富むドラムは熱量の地平が常に高いです。

単一の音程ですばやく動く、ハーモニックに音形を合わせて複数の音程で同時攻撃を仕掛けるなどギターの語彙も多彩です。時折低音の轟音を抜けて浮き上がるベースラインが「息継ぎ」のよう。

「Oh, Crying deep red」を唱えてエンディングへ。電動ドリルで奏でるミスター・ビッグみたいなサウンドだなと雑念が私の頭をよぎります。

Ⅴの和音を放りなげて、楽曲はフレーミングされます。“閉ざされた愛に向かい叫び続ける”。これはことの発端でしかないのでしょう。ここから続いていくのです。

埋め尽くすビートの嵐、ピタリと定規のそろったバンドの演奏、絶唱、その向こうにそびえる深淵な情念が圧巻です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>紅 (Xの曲)BLUE BLOOD (Xのアルバム)X JAPAN

参考歌詞サイト 歌ネット>紅

X Japan Official Website

『紅』を収録したXのアルバム『BLUE BLOOD』(1989)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】間奏明けに真のサビ『紅 -KURENAI-(X JAPANの曲)』ギター弾き語り』)