高校のとき、軽音楽同好会に入っていました。そこで、友達がザ・ブルーハーツの曲を演奏していました。『ラブレター』もそのひとつでした。

私も好きな歌でした。友達のバンドの演奏や歌は素敵だった。私もあんなふうに純朴にチャーミングに歌いたかった。そのときの私は、自分の歌にコンプレックスがありました。

それから15超年が経過したいま、『ラブレター』を私も自分で弾き語りで演奏してみました。なんて素敵な歌なんだろうと改めて思いました。自分の演奏に酔ったのではなく、この歌が、私を許容してくれるように思えるのです。ザ・ブルーハーツの歌なのだけれど、自分の歌のように思えるのです。

ザ・ブルーハーツの歌の素敵なところをひとつあげるとすれば、みんなが自分のもののように思えるところではないでしょうか。

その理由をこれまで何度も考えました。言葉が平易。コードも平易でシンプル。それも確かにそうかもしれません。

言葉やコードを道具に見立てます。道具は、使い方がやさしいほうが誰でも使えるのは明らかです。ザ・ブルーハーツの歌、たとえば『ラブレター』は使い方がやさしい道具によって、演奏したり歌唱したりできる曲。だから、多くの人に気に入られ、親しまれているのかもしれません。

もう少しザ・ブルーハーツの歌、ここでは『ラブレター』にぐっと近づいてみて気付いたことがあります。

それは、要所で、歌のメロディと、ベース(コードの低音)が3度の音程になっていることです。

3度はとても調和する音程です。距離の広い3度(長3度)と距離の狭い3度(短3度)があって、それぞれ印象は違うのですが、響き……すなわち音波のゆれ方・干渉のし方はキレイに心地よく感じられます。

図を見てください。採譜は私によるものです。乱筆で申し訳ありません。

冒頭を見てください。歌詞“ほんとうならば”の「ほ」はラ。コードが「F」、すなわち低音はファ。冒頭から強拍にファとラの長3度があらわれています。

“ほんとうならば”の「ば」はファで、Dmコードの低音はレ。ファとレで、短3度。

2小節目の“いまごろ”の「い」はレで、B♭コードの低音はシ♭。シ♭とレで長3度。

上図に含まれるAメロの一部、そしてBメロ(サビ)の歌詞に、太字で長・短3度の部分を以下に表現してみます。

んとうなら まごろ くのベッは あなた あなが あなたが てほしい”

ああラブレターひゃぶんのいちでも ああラブレター しんじてほしい”

コードの低音とメロディで、響きの心地よい関係(音程)を頻繁にあらわしているのがわかります。

これをTHE BLUE HEARTSだけの独自の特徴というには、あまりにも私の事例学習は足りません。しかし、彼らの魅力の「ことばにしづらい部分」の正体に1歩でも近づく努力を私なりにすると、「要所で、メロディとベース(コードの低音)によって響きのよい音程を成している」はひとつの気づきだと思います。

重ねがさねになりますが、「要所で響きのキレイな3度音程を聴かせる」はTHE BLUE HEARTSの専売特許ではないでしょう。しかし、コードの平易さ、言語の平易さを保った上で独創性を発揮するのは至難の技であり、それを実現しているのがTHE BLUE HARTSの尊敬すべきところのひとつだと思います。

『情熱の薔薇』、『人にやさしく』、『青空』、『ラブレター』、『リンダリンダ』……私の偏見ですが、彼らの持ち曲は、歌メロディのリズムの分割の最小単位、細かさが8分音符くらいまでに抑えてあるものが多い気がします。リズムの扱いやすさも、その曲の大衆性と深く関わる要素です。

歌詞についても、「あつかいやすい道具」すなわち平易な単語や文章によって人間の純粋な機微、その背景となる世界を描き、成立させていると思います。それはTHE BLUE HEARTSの魅せるフィクションであると同時に、現実に存在するミュージシャンとしての真の姿。リスナーを映す鏡でもあり、鏡に映った姿は真実であると同時に虚像(現実と違って左右さかさま)です。

草野マサムネが提起したTHE BLUE HEARTSの側面

ラジオ『草野マサムネのロック大陸漫遊記』(2021年9月12日の放送)で草野マサムネが興味深い視点を紹介していました。草野マサムネの発言の主旨を私のうろ覚えで紹介するに、“がんばれ”(『人にやさしく』より)みたいに、「分かりやすいメッセージと受け取られそうなことをわざと言っているんじゃないか」といったことです。

THE BLUE HEARTSは、自分たちが、美しさを投影する銀幕にされる(リスナーがときに現実を歪めて自分の見たいように見たり、現実に己の願望を映したりする)ことを見越したうえで、あえてその機能を包含しうる表現をしてきたのではないか……草野マサムネの発言に、私はそんな提起を受け取りました。

私は「受け取られ方を見越した計算」のようなものをTHE BLUE HARTSに感じたことがなかったので、草野マサムネの目の付けどころ・感じ方には本当に驚きましたし、気づきと学びを得ました。THE BLUE HEARTSは、誰になんと言われようと自分たちが美しいと感じるものを真っ直ぐに提示する表現者……というイメージが私のなかに少なからずあったのです。

いろんな解釈を許す器の大きさも、曲の魅力のひとつです。THE BLUE HEARTSの作品は、発表後も器を広げ続けるライブ感があります。まるで宇宙のよう。

青沼詩郎

『ラブレター』を収録したTHE BLUE HEARTSのアルバム『TRAIN-TRAIN』(オリジナル発売:1988年)

ご笑覧ください 拙演