土のにおいを巻き上げて世界へ

初期ドラマのピート・ベストバージョン、リンゴが叩いたバージョン、デビューシングルに用いられたアンディ・ホワイトバージョンが存在します。

どあたまからハーモニカのブルージーなトーンが強烈です。Gメージャーの楽曲ですが、最初からファのナチュラルの音程からはじまるのです。バンドの態度や音楽的ルーツが一発でわかるデビューシングルのイントロ。Gメージャーの楽曲に対してCキーのハーモニカを用いるセカンド・ポジションでしょうか。

歌い出しの”Love love me do”のフレーズひとつとっても秀逸で、ターー・ター・タ・タ!と、2分音符→4分音符→8分音符と細かくなっていく音価をたった1小節のなかに無駄なく詰め込んだ洗練と、ブルーススタイルな音楽の泥臭い文脈の匂いが同居・折衷しています。

そのリズム形の反復を基調にした6小節を経ると、”So please”のフレーズがおよそ2小節にわたるタイでつながれた全音符のはてに次の小節の頭までかかるくらいの長さ。please=どうか!の願い、言葉の意味の切実さを汲み取った見事な譜割りを持つと同時に、直前の6小節を見事に裏切り、世界に轟く彼らの未来を予言する脅威的な対比を醸します(この曲を収録するオリジナルアルバムのタイトルこそ『Please Please Me』!)。長い長いpleaseの果てに、主題のlove me doの反復を添えて10小節サイズに。さらにwhoa, love me doと反復を加えて12小節サイズになりベーシックで伝統的なブルース様式のサイズ感を私に思わせます。

ブリッジ……ビートルズ曲的にはミドルエイトと呼ぶようか、Some one to loveのところにさしかかってそれに続きSomebody newと返すポールのフレーズが豪快に9度ほどの跳躍で高い音程から降り注ぎ、そこのところもフラットしたブルーノートを歌っています。こうした歌唱の音程がなすニュアンスの機微を精緻に使いこなしてみえる……20歳そこそこの若者のデビュー作としては規格をはみ出す演奏力だと思うのは私だけでしょうか。

この歴史に残る大名曲Love Me Doに、地味だとか平凡だとかいった印象を抱く人も世界中のリスナーのなかにはきっと含まれるでしょうが、この楽曲のコピー演奏を試みてみるとミュージシャンとしての基本的な地の技術に根差した豊かな表現力が求めらることに気付きます。4人のメンバーのうち2人がすでに旅立ったのちの世(2023年11月)において、最後のシングル『Now and Then』のカップリング曲として再提示されるのにふさわしいです。このカップリングに用いられたのはもちろんリンゴがドラムを叩いているバージョン。

Love Me Do The Beatles 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのシングル(1962)、アルバム『Please Please Me』(1963)に収録。

The Beatles Love Me Do(アルバム『Please Please Me』収録 2009 Remaster)を聴く

タン・ロール(巻き舌)を取り入れたみたいな強烈なジョンのハーモニカの主張。その輝き、魂の意志が何十年しても鮮やかに再生され続けます。

pleaseの単語を長く引き延ばして歌うところでポールの節回しが効いて音程を揺さぶり、そのあとまる1小節と次の小節のアタマにかかる怒涛のロングトーン。ここの瞬間が、二人の声のハーモニーを世界に表明するおあつらえむきの意匠になっています。やはりビートルズのデビュー曲は本曲である必要があったのです。それを関係筋に最終的に納得させる説得力はこうした細部のひとつひとつにあったに違いないでしょう。

モノラルにまとまった音像。ドム!とキックの輪郭と質量、タイムが明瞭で気持ち良い。タンバリンはリンゴの演奏だそう。フープ(枠)のみではない、皮の張ってあるタイプのタンバリンのようで、バシン!と打面をアタックするアクセントが怒号のように私に響きます。シャワシャワとアコギのストラミングが雄弁で、グルーヴを自ら掌握しにいく積極性を感じます。エンディングで主題のlove me doを反復しながらフェイクを交え、ポールの歌唱力の高さをも提示しながら、ボクの表現を味わえる未来はまだまだこれからだぜといわんばかりにフェイドアウトの処理。どうぞ引き続きビートルズをよろしく!とハイタッチされた私は素直にすっかりフォロワーになってしまうわけです。

シングル『Now And Then』収録 2023 Mixを聴く

定位がつきました。右寄りにドラム、アコギのストラミング。左寄りにベース。まんなかにボーカルトラック。前後に抜ける残響感に、彼らが繰り返したったであろう、洞窟みたいな見た目をしたキャバーンクラブの目の前のステージで4人が生演奏している気がしてじんわり感動します。

リンゴのドラムには水平方向の揺らぎ、スイング感を感じます。自分が屋台骨になって音楽を支える基準になる!という姿勢がアンディ・ホワイト版だとすれば、リンゴのドラムはサークル(輪っか)の観念です。ギタートラックなどと徒党を組んでスイングしている。おれたちはグループなんだという気概を感じます。

定位がついていますが空間のなじみが自然で、スムースで精緻な音像が美しい。いまこのときと、それから(Now And Then)の主題とともに再提示するのにふさわしい。どうぞ、愛して!

青沼詩郎

参考Wikipedia>ラヴ・ミー・ドゥプリーズ・プリーズ・ミー (アルバム)

参考歌詞サイト Genius>Love Me Do

ザ・ビートルズ | The Beatles ユニバーサルミュージックサイトへのリンク

『Love Me Do』を収録したThe Beatlesのアルバム『Please Please Me』(1963)

『Love Me Do』を収録したThe Beatlesのシングル『ナウ・アンド・ゼン』(2023)