待ちぼうけ 古井戸 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:仲井戸麗市。古井戸のアルバム『古井戸の世界』(1972)に収録。
古井戸 待ちぼうけを聴く
着地しない逆循環コード様のパターンのヴァースに曖昧な長七の和音や長七のノートをあえて低音位に置いたようなとにかく曖昧なギターの響きがメランコリック。ナイロン弦でしょうか、ペチンと指板にぶつかりぽろんと気品のある音の立ち上がり、余韻たたゆたいます。
そんな鬱屈とした耽美なギターの上で芯の通った輝きの太い歌声。質量がすごい。たばこを何本吸っても食っても屁でもない。どんな太い材木でトップランカーのスラッガーがフルスイングしても彼の腹筋を貫くことはできないのではないか? というほどの質量のボーカルが退屈を、つまらなさを……現状の変わらなさを嘆きます。嘆くにはあまりに質量がありすぎる声。鍛錬され過ぎた声。響きすぎる声。四畳半の部屋の外に、黙っているのに幻聴が滲み出そうな声。インスタントラーメンを何食連食しても3年や5年じゃへこたれなさそうな声。
ギターと歌だけのトラックが極端することなか真ん中あたりにまとまり、私の後頭部に向かってシルキーなリバーブだけがゆるやかに抜けていく音響空間が孤独でぽつねんとしています。
わずかに太ももでもぺちぺち叩いているのかいないのか? ギターのストロークノイズを私がそう勘違いしているだけなのか? 最後の最後、エンディングでテンポがリットして音が静寂に変える一瞬にギタリストの声が一瞬漏れたような幻聴のような。
待ちぼうけた空間が凛として収録されています。
“たばこ1本 たばこ2本 待ちぼうけ ああ誰も来ない お茶を1杯 お茶を2杯 茶柱でもたてばと でも誰も来ない 誰でもいいわけじゃないが 誰でもいいわけじゃないが 僕は待ってます”
(『待ちぼうけ』より、作詞・作曲:仲井戸麗市)
茶殻、吸い殻だけが積み上がっていく。選ばなければ何かをすることもできるし、誰かと過ごすこともできるのです。でも誰でもいいわけじゃない。選んだものごとのために。選んだ人のために。その人との体験のために、新品のたばこもお茶っぱも殻へと変貌していきます。あるいは何も望まずともたばこも茶っぱも殻にはなっていく。退屈がからだを通り抜けるか、期待と羨望が体を通り抜けるか。なら後者が良いでしょう。誰でもいいわけじゃないからあなたは僕に待たれるのです。
青沼詩郎
『待ちぼうけ』を収録した古井戸のアルバム『古井戸の世界』(1972)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『待ちぼうけ(古井戸の曲)ギター弾き語り』)