魔法の瞳 大滝詠一 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:松本隆・大瀧詠一。大滝詠一のアルバム『EACH TIME』(1984)に収録。
大滝詠一 魔法の瞳を聴く
ちょっとどうなってるのか情報処理が追いつきません。音の数、どれだけ入っているの。大滝さんの遊び心と緻密な音楽への突貫力のすべてがファンタジーの高みへ押し上げます。
1948年生まれでいらっしゃる大滝さん自身が36歳頃に発表になったアルバムです。すごいな。経験、技量、とんち、大喜利、感性や感覚、人間という生き物としての体力と知力と反射神経、すべてが最も好バランスのもと充実する年代が36歳なのかどうか知りませんが、それくらい完成されさまざまなピースが揃うことでのみ生まれ得る作品なのじゃないかと思わせます。
ベースとドラムスが基礎になり、こんこんとピアノが響きを注ぎ・広げるのがオケの根幹になっているとは思うのですが、右に左にとてつもない音数が聴いている私を撹乱し、困惑させます。
パーカッションの類はもちろんだと思うのです。クラップ。ビブラスラップ。アゴゴベル? 音程のあるシンセだかキーボードのようなトーン。忙しく、すきまのひとつでもあれば突いてやろう、今か今かとまるでテレビ番組制作の小物倉庫で出番を待っている幾千のアイテムが控えているみたいに私の耳をにぎやかします。あんまりいろいろ登場するのでこちらの人格が分裂してしまいそうな気分です。
ブラスの低く暖かく、立ち上がりにわずかな時差(遅れ)を要する感じのトーンは野球応援みたいです。大滝さん趣味全開という気もします。
ス・テキな夜
キ・スをして
だ・きしめながら
よ・ぞら飛びたい
『魔法の瞳』より、作詞:松本隆・大瀧詠一
まるであいうえお作文です。音楽とのコンビ芸が凄い。「すすすす……」「きききき……」「だだだだ……」大滝さんのボーカルをチョップして切り刻んだような、どもってしまって語頭を繰り返したような音素材が右から左へ左から右へとステレオトラックの間に宇宙があるみたいに飛び交っていきます。ヨコの文章の段の連なりによって、タテにも文章を生じさせる。作詞って自由で奇天烈で愉快痛快で革新的です。
Magic in your eyes ディズニーの 動画の銀幕
迷いこんだみたいだよ 花さえコーラスしてる
『魔法の瞳』より、作詞:松本隆・大瀧詠一
聴いている私を大滝ワールドに迷い込ませた先ではさらにディズニーが入れ子になっておりそちらに誘導されてしまいます。
飛び出すのは『星に願いを』のメロディのパロディ。そうそう、このメロディ……かと思えば微妙にはぐらかします。明らかに『When you wish up……』と歌いたくなるのですが……それっぽい別のメロディなのでしょう。ベルというのかチャイムというのか、夢をみているようなトロトロして胸に滲み広がる音色が魔法をいっそう信じさせます。
J-WIDという、JASRAC登録を確認できるサイトで見ると、一応作詞が松本隆さんで作曲が大瀧詠一さんといった具合に役割を分けて登録されています。作詞作曲名義を両方とも一緒にする(共同名義にする)場合はそれがわかるように(役割が「作曲作詞」と統合された表記で)登録されるので、JASRAC登録上は作詞と作曲の線引きがされているようですが、Wikipediaあるいはレコードなどのクレジットを見るに「All Songs Written by 松本隆 & 大瀧詠一」と役割を区別していない向きあるようです。
これだけ、言葉(作詞)と音楽(作曲)が、ふたりで舞台にあがりその場で客前で生のライブで展開される「漫才」みたいに絡み合って関係しあってどつきあってふっかけあってひとつの演目になっている様子を思うと、作詞と作曲の分業が仮にはっきりなされていたとしても、いくつかのプロセスが孤立(独立)することなく、共同・並進でひとつの出口(楽曲、実演の完成)に向かっていったと評価できます。
「松本隆 & 大瀧詠一」は私にとっての作詞作曲における名実伴う最強「ブランド」の筆頭ですが、『魔法の瞳』は私が思う彼らの創作物の価値をさらに強固で崇高なものと確信させる傑作のひとつです。
青沼詩郎
『魔法の瞳』を収録した大滝詠一のアルバム『EACH TIME』(オリジナル発売年:1984)。2024年8月7日、『EACH TIME 40th Anniversary Edition』(Super Audio CD)が発売された。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『魔法の瞳(大滝詠一の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)