映像 What a beautiful memory 〜forever you〜
視線をちらしながら歌う坂井泉水。良くも悪くも「顔で歌う」(表情を表現にふんだんに用いる)シンガーもいますが、彼女は平然と歌うほうかもしれません。1コーラス目は階段セットの上、高いところから。2コーラス目で降りてきます。ギターソロかっこいい。レスポール型ギター。サスティンが強くて痛くなく、よく響きます。ドラムスが二人いる……? 複数のバンドの共演なのかもしれません。
曲の名義など
作詞:坂井泉水、作曲:織田哲郎。ZARDのシングル、アルバム『揺れる想い』(1993)に収録。
メロディ、コードなどのこと
8分音符を連ねるAメロの入り。Bメロは4分音符の連なりで入ります。Bメロのカエシの入りの“あの日”でポジションを6度下げ、“あの日 のように”と順次進行を反復するメロディ。“のように”のところ、Emの下に半音下がったベース(D♯)を置いた不安の強い響きを4小節毎の節目のあたまにもってきたのが大胆です。そのままベースは→D→C♯→Cとさがっていき、そのCのⅣ→Ⅴでサビにもっていきます。オダテツ先生の妙技か。
歌詞
Bメロに印象に残る表現を用いています。
“パステルカラーの 季節に恋した あの日のように輝いてる あなたでいてね”(ZARD『負けないで』より、作詞:坂井泉水)
あらためて「パステルカラーって何?」と自分に問うと、意外とわかっていないなぁと思います。「中間色」と検索で出てきます。原色の対極といったところでしょうか。淡い色の見本が検索にヒットした画像で出てきます。
「パステルカラー」を、「季節」を飾ることばとして用いています。中間色の季節……というと、季節の変わり目のことかもしれません。ならば、特定の季節の真っ盛りは原色と喩えられそうです。季節の変わり目の言い換えとして「パステルカラーの季節」という表現を思いついたのかどうかわかりかねますが、Bメロのあたまに「パ」の破裂音からはじまる外来語。聴く人の記憶に残る言葉選びです。
2コーラス目のおなじBメロの部分にまた強烈に印象に残る表現があります。
““今宵は私と一緒に踊りましょ” 今もそんなあなたが好きよ 忘れないで”(ZARD『負けないで』より、作詞:坂井泉水)
「今宵は私(わたくし)と一緒に踊りましょ」という表現を、私は誰かに向かって使ったことがありません。日常生活ではまず必要のない表現ではないでしょうか。映画や漫画や小説であってもお目にかかった記憶のないせりふです。
気障な気もしますが、かわいげがあります。おどけて言っている感じでしょう。くすりと相手を笑わせたくて言っている感じが嫌いじゃありません。これを実際に相手に対して使おうというセンスは私にはありません。それを引き出したのは相手……この歌の主人公のほうかもしれません。二人だからこそ成立するジョークでしょうか。私の知らない文脈がすでにあって、その上で登場したおかしなせりふかもしれません。
とにかく主人公は「今もそんなあなたが好きよ」と言っています。このジョークは通じているのです、少なくとも二人の間では。
むすびに
応援歌の定番といった印象で、私は自分が子供だったころ、学校の運動会で『負けないで』がひたすらリピートでリレーや短距離走の最中ずっと流れていたのを聴いた記憶があります。
あらためて味わってみるとBメロの歌い出しの詞のインパクト、そのおかしみを実感します。ここの引っ掛かりは当時から感じてはいました。
応援歌、といった表面の印象。精神を鼓舞し合う純(す)んだ愛情が表で、裏面はおどけたジョークの通じる二人のラブソングかもしれません。そんな二面を感じました。
青沼詩郎
『負けないで』を収録したZARDのアルバム『揺れる想い』(1993)
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『負けないで(ZARDの曲)ギター弾き語り』)