まえがき
ザ・スパイダースのアルバム『スパイダース ’69』(1969)に日本語カバーが収録されているのを聴いて知りました。日本語訳詞は岩谷時子さん。もともとはMarie Laforetによるフレンチポップス。ピンキー・アンド・ザ・フェラスによる英語のカバーが日本でもヒットしたそうです。 スパイダースはEマイナーキー。どよんとしたサウンドとハーモニーに、Bメロで入る堺正章さんのボーカルに華があります。どよんとした割にテンポは原曲よりやや早め。 マリー・ラフォーレの原曲はAm。ねっとりした空気と、風前の灯のようなボーカルの儚げで軽いタッチが魅力です。ハーモニカのビブラートやバックグラウンドボーカルのサウンドも消え入りそうでさみしく、風情があります。
マンチェスターとリバプール 曲の名義、発表の概要、影響の要点
作詞:Eddy Marney、作曲:Andre Popp。Marie LaforetのEP『Volume Ⅻ』(1966)、アルバム『Manchester et Liverpool(Album : 3)』(1967)に収録。スコットランドのバンド、Pinky & The Fellasのカバー(1968)が日本でヒット。
マリー・ラフォーレ マンチェスターとリバプール(配信アルバム『1966-1968』収録)を聴く
低いサックスとベースのユニゾンが、ズモモと深くて硬質。これが私に工業都市のような、大きくて威圧的な舞台背景を思わせるのです。この背景と、マリー・ラフォーレの消え入りそうな沈痛なボーカルの対比が儚げでたまりません。
低音とボーカルの対比に軽い歯ざわりを与えるのが木琴です。カチカチっと短く、水滴が細かく砕けるようなはずみ具合でかつ乾いた響きです。個人の涙なんか巨大な社会のうごめきの中ではどこへ行ったかなんて追いかけようもない、といった具合に虚しい。ウッドブロックもカツっと小鳥のように鳴きます。スネアのサウンドがパサっと短く、キレが良い。あっさりすれ違って振り返りもしない他人みたいに虚しい。
主人公のしめりけに帯同してくれる救いがハーモニカでしょうか。ハンドビブラートが寄りそうように虚しい。話を聞いてくれなくても虚しいのに、話を聞いてくれても虚しい。恋にやぶれたものに必要なのは時間の経過だけなのでしょう。それ以外はあってもなくても結局おんなじなのです。いえ、いつかは何かの因果が帰ってくるのでしょうけれど……
すちゃっとエレキギターのカッティングもいます。おなじ部屋にいるのになんでお前は呑気なんだ。どうしてか私をそんな気分にさせます。完全にとばっちりでしょう。なぜかそういういわれもない誹りを受ける星に生まれるものもどういうわけか世にはありがちに思えます。私の偏見でしょう。私とてその星のめぐりのもとの者でないとも限らない。因果応報です。軽はずみな言動も、鈍感な態度もすべて。
青沼詩郎
参考歌詞サイト GENIUS>Manchester et Liverpool
Marie Laforet『マンチェスターとリバプール』を収録した『Album : 3』(1967)と思われるリンク