マーチ くるり 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:岸田繁。くるりのアルバム『図鑑』(2000)に収録。
くるり マーチを聴く
強烈な存在感をもってわたしの記憶にくっきりと影を残す楽曲、『マーチ』。シングル曲じゃなかったんだな、そういえば。
3月を意味するところのMarch。あるいはマーチング・バンドなどいわれる行進の意味の語彙としてのmarch。ダブルミーニングの主題を、長音を含めたカタカナ三文字で表現。あるいはこの三文字からほかに想起するものの広がりが無限にあって良いでしょう。
あらためて聴くに……バカスカとドラムスの動きの荒々しさが凄いです。ゴーストノートとして扱っていいような小さな音価、ウラ拍のスネアの主張が凄いので、メリハリのメリだかハリだか(どっち?)片一方がずっと続いているようなダイナミクス感です。
基本は6/8拍子と解釈すべきでしょうか、あるいはあんまりにも小さい音価のアクセントをドラムが主張してくるので、まるで一拍を6分割した2拍子系……12/16拍子みたく思えてきます。
かと思えばBメロで曲調が急変。拍子が変わった? ちょっとハネの利いた2拍子の4分割系にもきこえますが、ギター・ベースのシンクロするオブリガードのキメはスクウェアな分割に聞こえます。ジャブとストレートで戦うのがボクシングの基本であると仮にすれば……まるでストレートとフックだけで戦っているみたいな荒々しさと奇天烈ぶりです。
ミョォオオーン! ヒョォオオオーン! とひっきりなしに雄叫びをあげるのはエレキギターのボトルネック奏法なのでしょうか。ポルタメントで空を切り裂いては漂う。私の心のなかの電線が強風にびゅうびゅうなびいて揺れている気分。
サビ(っぽくないサビだ)でボーカルハーモニーが荒々しいバンドの空間のすきまを補強しますが、補強という言葉が似つかわしくない、透過性のあるボーカルハーモニー。あえてリードボーカルよりも低い音域を……ひょっとしたらファルセットで歌っているのでしょうか。
リードボーカルの音域がかなり極端に声区にまたがり、実声で張り上げるしファルセットで上に高く抜けます。奇天烈なメロディラインに豪快に振り回される私。身の置き場を求めてさまよう境界人間・マージナルマンのさけびなのか。
バンドの轟音にまけないポジションで歌うレパートリーが目立つのがくるりの初期の特徴でしょうか。
しかし、このアルバム『図鑑』の『マーチ』直前のトラック『イントロ』から聴くとオーケストラの音色に未来に渡って変幻自在な姿勢に「まさにくるりだなぁ」とニヤつかされてしまう私。その『イントロ』を指すアナログテレビのチャンネルノブを一刀両断するかのようにブチ壊しにかかるアルバム2曲目の『マーチ』です。痛快極まります。
歌詞パートを消化してエンディングで……コードストラミングもやめてオクターブ奏法のオルタネイトストロークでギター、切り刻むことトンカツに添わるキャベツも真っ青。がちゃがちゃと引っ掻きまわし、もはやスケール(音階)のハシゴの目も振り切ってまさかのカット・アウト。シンバルの余韻が空虚にただよい、あっけにとられたを私がニヤついている……と、すかさず次曲『青い空』のはりつくようなギターが始まりズカン!とドラムが入ってくる。どんな図鑑だこりゃ。
荒々しく、猪突猛進で容赦ない風、春一番を表現したような突き抜けたバンドサウンドとボーカルの叫びが轟きます。
青沼詩郎
『マーチ』を収録したくるりのアルバム『図鑑』(2000)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『マーチ(くるりの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)