望みと現実の邂逅点

作詞は雑誌「平凡」における公募だそう。補作詞がなかにし礼さん。

デューク・エイセスが歌い、ドリフターズが「ビバノン・ロック」としてもカバーした『いい湯だな』が全国各地の温泉地を唱え上げたとすれば、本曲は港に着目し津々浦々の町をさまよう心を主題とします。

インターネットで情報があらゆる場所でつながった現代とはかなり様相が異なる時代においては、港町は文化や最新の情報が交換され、異なる出自の者どうしが接点をもつ拠点であったであろうと想像します。あらゆる事物の交換における世界じゅうの港町への依存度が現代よりもっと高かったのでは?と……。出たり入ったりする門が港であり、数多の恋人関係もまた港を出入りする船のようにめまぐるしく流転していくものでしょう。

「みぃなと〜」という森さんの強烈なニュアンスづけにより、全国の港町を舞台にした慕情に寄せる悲哀や憐れみの激情がその歌唱によって表現されます。私のなかにこびりついた演歌のラベリングをぺろりと吹き飛ばす痛快さは、そのまま演歌の型・様式自体に依拠するでもない歌手の急進的で発展的な態度の表れにも思えます。

余談ですが、この曲を私が知るきっかけをくれたのは押見修造さんの短編集『罪悪』に収録された「ひろみ」というタイトルの漫画でした。登場人物のひろみ君が本曲のサビ「みぃなと~」の印象的な部分を口ずさむので、同級生らなどにからかうようにひろみくん自身が「みぃなと~」と呼ばれからかい種にされる……というようなシーンが描かれます。ある出来事がきっかけで、主人公がひろみ君に罪をなすりつける結果になってしまったエピソードが描かれ、そのことをもし主人公が謝罪できていたら、ひろみ君や主人公の未来はすこしだけちがったものになっていたのではないか?といわんばかりに現実の無情さと「主人公がひろみ君に謝れていた平行世界のもしも」を象徴し悲哀を浄化するように、ラストシーンで汽笛を轟かせる船と海の情景が描かれます。素晴らしい漫画なのでぜひ森進一さんの港町ブルースと併せて鑑賞してみてください。

港町ブルース 森進一 曲の名義、発表の概要

作詞:深津武志、補作詞:なかにし礼、作曲:猪俣公章。編曲:森岡賢一郎。森進一のシングル。アルバム『森進一のブルース』(1970)に収録。

森進一 港町ブルース(シングル)を聴く

森さんの、声帯を撫でて気管支を通り抜ける息がしゅわしゅわと清涼、胸に響く豊かな質感を併せ持ち心地よいです。サビでのアグレッシブなこぶしづけ「みぃなと〜」が衝撃的でこれが番が進む毎に繰り返し来てくれるのが気持ちよく中毒的にくせになります。

オケの音の満たされ感。右にポポポポポポ……とトリプレットのピアノがまっすぐ。チチチ……と左にはタンバリンの音量が奥ゆかしい。ビブラフォンが豊かに心の底にたまった慕情の泉を思わせます。アー……と女声コーラスが常にいるし、ストリングスのサスティンもずっと伴う。ボーンとのびやかであたたかなベースと軽いドラムのサウンドが常にいて、音で満たされている様子はととのったインフラとしての港を思わせます。エレキギターやフルートの音色がオブリガードでアクセントをつけます。また歌と歌の間で、バリバリ!と強烈な明るい音色のブラス、太い音量と轟く質感はトロンボーンでしょうか。

番が進んでも基本、伴奏の音景は保たれ、同じ景色がつづきます。人のライフステージや恋愛模様はあれこれ入れ替わっていってしまうのに、きょうも港はひょうひょうと運営をつづけるのです。その様子がたくましくたのもしくもあるし、もっとおれに同調してときには泣き叫びをあげてくれてもいいのに……という無情さの権化でもあります。

青沼詩郎

参考Wikipedia>森進一港町ブルース

参考歌詞サイト 歌ネット>港町ブルース

森進一|オフィシャルサイトへのリンク

『森進一ベスト~歌手生活50周年記念盤~』(2016)

『森進一のブルース』(1970)