宵町のスモーキーファンタジー
ソラドラッラッラッラ… というベースギターのリフレインが、まるで事態が進捗しない様子をあざ笑うみたくループします。
“あの娘”の足跡を追う“あんた”。行く先々で“あの娘”の過去の様子の具体を知りますが、肝心の今の所在の手がかりはつかめません。
“あの娘”は水商売の従事者なのでしょうか。そして“あの娘”の証言をくれるのはそうした水商売の事業主だったり中間管理職だったりするアニキ、アネゴ、同僚たちだったりするようです。
ヴァースには旋律らしい旋律がほとんどありません、つまりせりふ:語りです。落ち着いた穏やかな抑揚でそれぞれの証言をする人格が演じられますが、落ち着いた声色であるが故に漂う凄みを感じもします。
メロディのないヴァースに対して、コーラスのお決まりのフレーズ、“港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ”。ララララシーシ・ドードドドド・レレレミー…と完全な順次進行のシンプルなメロディで、リズムには移勢がみられアクセントの効いた抑揚で私を打ちひしぐ「ヨ」の頭韻が強烈な印象です。
ベースギターのリフは進展しない堂々巡りを思わせもしますが、フレーズに「ラドッレッミッソラ」と「ラソッミッレッドラ」と、上行と下行のバリエーションがあり、ひらく・とじるのメリハリで、セリフをいう・コーラスを歌うのサンドウィッチ構造に秩序ある意匠を加えています。

堂々巡りしているようなあの娘の足跡を追う主人公の捜索の旅ですが、最後のヴァースでついに“たった今まで坐っていたよ あそこの隅のボックスさ”というところまで来ます。“店をとび出していっちまった”ところなのですが…ここまで来ておいてまだすれ違い続けるのでしょうか。
“アンタ あの娘の何んなのさ”のお決まり文句を繰り返し浴びせられる主人公ですが、しまいには“アンタ あの娘に惚れてるね!”と、その恋慕を見透かす言葉を直接的に浴びせられ、最後のコーラスはふたわまし入念に、“港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ”。
現実にある町、横浜・横須賀ともちがう、架空のヨコハマ・ヨコスカなのでしょうか。となると、架空のヨーコがつかまるわけもないのです…と、フィクションと「メタ」の境目すらも混同させる幻惑性すら覚えます。主人公の捜索の旅はまだまだ永遠に続くんじゃないか? と、ヤニと闇にまみれた夜の街のスモーキーファンタジーが輪廻します。
港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ 曲の名義、発表についての概要
作詞:阿木燿子、作曲・編曲:宇崎竜童。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドのシングル『カッコマン・ブギ』B面(1975.3.20)、アルバム『続 脱・どん底』(1975.2.5)収録。
ダウン・タウン・ブギウギ・バンド 港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ(『35周年ベスト』収録のシングルバージョン)を聴く
声がダンディでかっこいいので終始落ち着いた印象が残るのですが、ダンディななかにも声に抑揚、調子の変化があり、証言を託す多様な人格の多様な口ぶりのニュアンスの幅が憑依してもいます。
綿埃がはじけるようなカラっと乾いたスネアのアクセント、ギターのリードトーンの鋭さが楽曲に熱量面での起伏を演出します。せりふを聞かせるところではぐっとダイナミクスをおさえ…ブリッジミュートで声をひそめるようなニュアンスのエレキギター。出る・引っ込むのシンプルな波で魅せる楽曲の裏表のはっきりした構造を演奏のダイナミクスが支えます。
せりふのところではギターのダイナミクスが静謐なぶん、ピアノが針でチクリと刺すように鋭いストロークリズムで緊張の手綱を放しません。
せりふ・コーラスのシンプルな組み合わせの中腹に映像描写で時間経過に厚みを持たせるかのごとく、間奏が入ります。全音上のBm調への転調は“あの娘”への有力情報を得て接近を試みる高揚感を覚えますが、Bm→E→D→G……と進行して結局また元のAm調に戻ってしまいます……チクショウめ! …ガセネタでもつかまされたのでしょうか。
ギターのベンド(チョーク・アップ)でグイグイ! とバンドがリズムを止めて、フィー……と汽笛なのかサイレンの遠鳴りなのか環境音のもとにぽっかりとリスナーは残されてしまいます。
あんまりあの娘を深追いするから、何かよからぬトラブルにでも巻き込まれて唐突に“アンタ”までもが音信不通になったんじゃないか? という空しいエンディング。
アルバム『続 脱・どん底』収録バージョン
シングルバージョンに対して、こちらの方がわずかに早いオリジナルリリースの音源になるようです。テンポが速くて、少しバンドの態度が若くみえる印象です。ピアノではなく「ポピポピ」「ピヨォ~ン」というオルガンが鍵盤にチョイスされているのも印象が大きく違う要因でしょう。ちなみに1975年の本曲リリース時にはまだ鍵盤奏者のオリジナルメンバーが未加入だったようですので、シングル版のピアノにせよアルバム版のオルガンにせよスタジオミュージシャンによる演奏なのかもしれません。
せりふもやや早口ですし、ギターソロもちょっと速弾きに感じます。ディープ・パープルなどのハード・ロックバンドの最初期のサウンドを思い出しもしますが…私の連想が脱線しすぎでしょうか。
シングルバージョンの方が、自分たちのバンド独自の色気の凝縮に成功している感じがしますね。バージョン違いの複数の音源から、曲に対するバンドの解釈や態度の変化がうかがえます。
青沼詩郎
参考Wikipedia>港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ、ダウン・タウン・ブギウギ・バンド
宇崎竜童 Ryudo Uzaki Official Websiteへのリンク
シングルバージョンの『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』を収録したダウン・タウン・ブギウギ・バンドの『35周年ベスト』(2007)
『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』を収録したダウン・タウン・ブギウギ・バンドのアルバム『続 脱・どん底』(1975)