水入らずの午後 オフコース 曲の名義、発表の概要

作詞:松本隆、作曲:筒美京平、編曲 : 矢野誠。オフコースのシングル『忘れ雪』(1974)に収録。

オフコース 水入らずの午後(OFF COURSE Singles(1998)CD収録を聴く)

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ドライな音像がカッコイイです。ベースとドラムスが極めてタイトなのですね。おまけにストリングスもタイトです。ピタっと寸分の乱れ・アソビもなくタイミングを決めてきます。

エレキギターの轟くような「乾き」もこのドライさの要でしょう。極めてエッジーなのに、聴き辛くありません。乾いた歪みのエネルギーを感じる音の質感です。

ベースの細かいのなんの。一糸乱れぬ玉ねぎのみじん切りのごとく、熟練のホテルシェフかのように正確に緻密にシックスティーンのリズムを切り刻んでいきます。時折高めの音域まで浮き上がるようにオカズを決めます。達者です。

ドラムスのピタっとしたタイトさも際立っており、特にハイハットのキレの短さ、粒立ちの質感はリードのエレキギターと似たキャラクターです。耳に痛くない限界のところで極めて明瞭な輪郭を有したハイハットの音色。

サビで上下にハーモニーが分かれるボーカルは上が小田さんで下が鈴木さんのものでしょうか。最高の技術を持った操縦士による、戦闘機の式典のための連隊飛行みたいなものを想起させるピタっとしたハーモニーです。

CDに封入されたアナログジャケットをCDサイズで復刻した歌詞カードを見るに、演奏メンバーに驚きます。ギターは矢島賢さん、高中正義さん(なんと、この二人を同時にキャストしてしまうとは。ジャパニーズトップギタリストの豪華対談かよ)。あの異常なまでに細かくタイトなベースは後藤次利さん。ドラムスが村上秀一さん(ポンタさんですね)。

なるほど、オフコースメンバーの演奏はほとんど歌のみの様相です。バンドではなく歌謡曲やアイドルを売り出すような制作スタイル……とまで言っていいかわかりません。オリジナルアルバムに未収録となっている一因がこうしたところにあるのかもしれません。

それでも演奏はこの通り豪華ですし、作家も松本隆さん&筒美京平さんです。なんと、オフコースにも提供していたとは初めて知りました。オフコースのオリジナル作品である、と触れ回る作品では確かにないのかもしれません。収録された音源の質を純粋に鑑賞する限り、ここまでドライで精緻な演奏が込められた作品も稀なもので、見事だと感服するばかりです。

熱い紅茶啜りながらきみの気持ち読みとる 雪のように舞う言葉に何をたくし話そう 何故愛は手にのせた雪のように こんなにせつなく消えてしまう せめて今夜だけはきみと寄りそいたい 肌が寒い季節だから

オフコース『水入らずの午後』より、作詞:松本隆

冬の歌ですね。可憐で儚い言葉。落雁のように舌の上で解けてしまいそうな繊細な情感がさすが松本隆さんの作詞という感じがします。はかなく消えてしまう雪の結晶は主人公の想いのもろさなのか、あるいは想いは確かな温度がまるで淹れたての紅茶のように滾っているのにそれを出力できない己の語彙のなさによるもどかしさのシンボルなのか。

紅茶の熱さと雪の繊細な冷感が対比をなしていますが、熱い紅茶の前ではひとひらの雪の冷感は至極頼りないものに思えます。

メロは歌謡曲っぽくマイナー調を表面に感じるボーカルメロディと和声です。Bメロで平行調のメージャーにふっと響きが変わります。コーラスはまた元の短調に戻ります。移ろう響きの主軸。心が揺さぶられる不安定なメンタルが楽曲を通して鑑賞者の胸に立ち上がります。

B♭調とGm調で演奏されている様相ですね。ボーカルのキーは男声としてはやはり高めで、コーラスに至れば壮麗で繊細なオフコース「らしい」声の響きが轟くキー設定。このあたりにはボーカリストの魅力が出る音域を見定める神通力を有する筒美京平さんのセンスを暗に感じます。オフコースメンバー側がこの楽曲をどう位置付けているかは別として、ひとつの音源として私を魅了してくれます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>忘れ雪 (曲) OFF COURSE Singles オフコース

オフコース 公式サイト(ユニバーサルミュージックジャパン)へのリンク

参考歌詞サイト 歌ネット>水入らずの午後

『水入らずの午後』を収録した『OFF COURSE Singles』(1998)。『OFF COURSE Singles 21 1973→1982』(1989)の再発盤にあたるベスト。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『水入らずの午後(オフコースの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)