モナリザの微笑 ザ・タイガース 曲の名義、発表の概要

作詞:橋本淳、作曲・編曲:すぎやまこういち。ザ・タイガースのシングル(1967)、アルバム『ザ・タイガース 世界はボクらを待っている』(1968)に収録。

ザ・タイガース モナリザの微笑を聴く

ジュリーの絶唱がマイクロフォンを覆いオーバーゲインして私の脳みそから溢れ出します。

オープニングの曲調はしとしと。短調の歌謡曲然とした雰囲気です。作曲がすぎやまこういちさん。GSといえばバンドメンバーが自演するスタイルですが職業作家さんが書いたレパートリーも多くみられるのがGS。タイガースの場合はすぎやまこういちさんの作曲で『花の首飾り』もあります。

編曲もすぎやまこういちさん。ストリングスの支えが絶大です。オリジナルメンバーのバンド演奏と50/50いや……40/60くらいでスタジオミュージシャンのバックが私の印象を占めます。

あるいはジュリー30、ボーカルのハーモニーワーク20、オケ30、メンバー演奏の楽器(ギタードラムスベース)20くらいの印象の割合でしょうか。ボーカルのハーモニーの質量感が良好です。ジュリーのダブリングが複数いるような気もしますがタイガース各メンバーの声色にまで私は明るくないのでわかりません。

ハーモニカの寂しいフィールがまた絶大。叙情的で正確ですし、かつ漂うような哀愁があります。テン・ホールズでこの音色が出るかな。でもいかにもな「クロマチック」チックな音色でもない、枯れたフィールがあります。楽曲のじとっとしたさびれ感を提示する、スポットライトを引く時間としては短いですが重要な役者がハーモニカです。

エンディング付近でヤギを屠殺する声かと思うような(私の妄想ですが)、低くて独特な音色がモチーフをカエしてきます。これ、バス・ハーモニカか何かの音色なのかな。ぐもっとしたおどろおどろしい、際立った描線を感じる音色です。

こちらのクロマッチ・ハーモニカ教室クラブ活動というブログサイトの投稿にかなり限定的なヒントをみつけました。上記リンク先より引用しますと“ホルン・ハーモニカが使われました” “アルバムでは森本先生がクロマチックを吹いている”と書いています。

トンボ(ハーモニカメーカー)のサイトに説明があります。“ホルンハーモニカは吹音のみで設計されたアンサンブル用ハーモニカ”とのこと。大型の本体、大きいリードで重厚さと繊細な表現を兼ね備える楽器でハーモニカのみのアンサンブルグループに大変好まれる楽器のようです。

森本先生なる方は森本惠夫さんのようです。八木のぶおさん、松田幸一さんと私の持つハーモニカヒーローの知識はごく限定的で少ないです。森本さんも今後のために記憶しておきたい。

雨がしとしと日曜日

僕は一人で

君の帰りを待っていた

壁に飾ったモナリザも

なぜか今夜は

すてきな笑顔忘れてる

『モナリザの微笑』より、作詞:橋本淳

モナリザを家に飾る家庭って見たことがありません。もちろん否定はしません。そんな家庭があってもいい。教養が高そうです。家の壁だとも限りません。家じゃなかったらどこなんだと。ホテルとかだったらありでしょうか。そんなホテルある? まあいいか。

モナリザの表情は見る人の心を映すようです。主人公が悲しい気持ち、寂しい気持ち、残念・無念な気持ちで見たらモナリザの表情もそう見えるのです。モナリザが笑ってるから僕も楽しい!とはならない。こちらの心がトリガーになっている点がモナリザが傑作たるゆえんでしょう。そんな美術界のエポックを楽曲のなかのモチーフに引き入れて主人公の悲しげな恋を描きます。

あの娘の心が欲しい?

どんなに遠く離れていても

僕はあの娘の心が欲しい

『モナリザの微笑』より、作詞:橋本淳

Bmの曲ですが、中間部分で平行調のDメージャーの響きで希望の光を引きます。じめっとした短調の歌謡曲でも、曲中ずっと純然たる短調の秩序でいつづける曲も半分くらいの印象で、たいていの大衆音楽の短調のものは、曲の中で平行調に浮気します。ずっとじとっとした独特のフィールを持つ短調でいつづけることは、大衆音楽のお作法としてはなかなかしんどいものなのかもしれません。もちろん、平行調や同主調の長調に浮気しない純然たる短調の大衆音楽もあるでしょうが……戦後を象徴する『リンゴの唄』でさえ短調のイメージが強いものの、長調のオープニングを経てから短調のヴァース(歌い出し)になっている。曲中、ずっと主調の短調で居続けるのは、ニンゲンの精神衛生的にきついのです。

楽聖ベートーヴェン先生の第九だってニ短調で綴りはじめ、有名な4楽章「よろこびの歌」の部分はニ長調(Dメージャー)です。長大なクラシック曲と歌謡や大衆の商業音楽を並列するのはこじつけがきつすぎるかもわかりませんが、音楽を心の共にする人間というユーザーのの普遍にそう違いはないと論述の串を通せば、あながち的外れでもないでしょう。

心が欲しいんだね。欲さなくても、そこにあるじゃん? 持ってるじゃんね。

あなたの心はあなたのもの。あの娘の心はあの娘のもの。

青沼詩郎

参考Wikipedia>モナリザの微笑 (曲)

参考歌詞サイト 歌ネット>モナリザの微笑

『モナリザの微笑』(モナリザのほほえみ)を収録したアルバム『ザ・タイガース 世界はボクらを待っている』(1968)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『モナリザの微笑(ザ・タイガースの曲)ギター弾き語り』)