まえがき 迅速なカバーとご本家のリリース

ご本家の発表に対してカバーが迅速です。ボブのリリースが、オリジナルアルバム『Bringing It All Back Home』(1965)で3月22日。バーズのカバーは彼らのシングルで同年4月12日のリリース(ほとんど3週間じゃん!)。同曲を収録した彼らのファーストアルバム『Mr. Tambourine Man』は同年6月にリリース。

1960年代くらいの日本の音楽で、「競作」などと謳って、ほとんど同時期に同じ楽曲を2組や3組の歌手が発売するケースがあったと思います。アイドルグループでもない限りは、多くのアーティストが、自分が歌う曲は自作するのがごくあたり前になった今の世の中ではなかなか見られない風潮だったかなと思います。最近だと「競う」というより、互恵関係を狙った「コラボ」とか「フィーチャリング」といった謳い方で、複数のアーティストが同時期に関係しあった楽曲をリリースすることはままあるかと思います。「競作」って、なんだかお互いの目線の間に火花が散ってるみたいなイメージがして、なんだか昭和っぽくて微笑ましいものです。

競作あるいはコラボとかフィーチャリングの観念はともかく、1960年代とかの商業音楽はご本家のリリースに対してとにかくカバーの発表が早いイメージがあります。

現代だと、20年しても50年しても名作と共感できるものをカバー曲としてとりあげる、そうした曲をいくつも集めてカバーアルバムを発表するといったことはままあるでしょう。

現代でいったら、昨日のきょう(くらい最近、という喩え)発表されたミセスの曲だとか米津さんの曲だとかVaundyの曲だとかを、もう来月のアタマくらいには誰かがカバーしているみたいな商魂たくましさです。提供曲として提供先の歌手が発表し、ほとんど同時期に作家御本家側もリリースしているみたいなことは、年代問わずずーっと行われている発表のあるあるだと思いますけれど。

Mr. Tambourine Man Bob Dylan 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Bob Dylan。Bob Dylanのアルバム『Bringing It All Back Home』(1965)に収録。

Bob Dylan Mr. Tambourine Man(アルバム『Bringing It All Back Home』収録)を聴く

Fキーだと思うのですが、低域で下のFが鳴っていますが、高域ではDコードのポジションを用いたようなチャリチャリしたきらびやかな響きが鳴っています。これは不思議だ。おそらくオープンチューニングです。6弦を全音下げにして、DADGBEのチューニングにして、Dのコードを押さえて全部の弦を鳴らせばDメージャーの豊かな3和音が鳴るようにチューニングするわけです。そのギターの3フレットにカポタストを装着すれば、Fキーでこの豊かな響きが使えるようになります。

ⅣのコードにあたるB♭を鳴らすときに、いつも第1転回形、すなわちレが低音位にあるように感じられる理由は、オープンチューニングなのでレギュラーチューニングと同じ押さえ方でⅣの開放弦コード(Gメージャーコードを押さえるときのポジション)を用いると無理のある押さえ方になってしまうからでしょう。(本来薬指で押さえる6弦が、2フレット分上に離れてしまう)

そうしたチューニング上の工夫が、このギターの伴奏の独特の浮遊感と低域の豊かさを両立していると察するのです。

音の景色はずっといっしょ。4番まである歌詞、ずっと、ひたすらにストラミングするメインのリズム・コードギターに、左側でアルペジオをクリーンな音色で鳴らすエレキギターが付き添います。4分音符中心にところどころ16分割の移勢を効かせたようなアルペジオで、しっとりと間断なく寄り添うサイドギターがやさしい。

ボブが弾いていると思われるリズムギターはくだんの変則チューニングによる低域と高域の弦の弾き分けが肝要になっています。

言葉の世界を魅せるための安定したサウンドスケープを終始提供しているのがサウンド面の偉大な工夫といえるでしょう。

The Byrds Mr. Tambourine Man(アルバム『Mr. Tambourine Man』収録)

きらびやかな12弦ギターの響き。テシテシとタンバリンがアクセントを演じ分けます。このキラキラしたサウンド、柔和で甘美なボーカリゼーションがバーズの功労です。また、長い歌詞をバッサリ。抽出のツボもよかったかもしれません。ドシドシとドラムがしっかり鳴り、ピシっとエレキギターが点を止め、エレキベースはダウンストロークを連ねて直線的な印象でボーカルをうまく乗せて運んでいきます。爽やか。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ミスター・タンブリン・マン

参考歌詞サイト KKBOX>Mr. Tambourine Man

Bob Dylan 公式サイトへのリンク

『Mr. Tambourine Man』を収録したBob Dylanのアルバム『Bringing It All Back Home』(1965)

『Mr. Tambourine Man』を収録したThe Byrdsのアルバム『Mr. Tambourine Man』(1965)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】言葉以上に透明な風 Mr. Tambourine Man(Bob Dylanの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)