突きつける天秤

チェリッシュのデビュー曲、本曲と同名のファーストアルバムに収録。

初期のチェリッシュは5人組で、本曲作曲者の藤田さんはバンドのベーシスト。1972年からメンバーが減り、デュオ編成となります。代表曲の『てんとう虫のサンバ』はお2人編成になってからのレパートリー。

本曲『なのにあなたは京都へゆくの』はねっちりとした情念の乗り移った16ビートに筒美京平さん作品を思い浮かべもしますが、筒美京平さん作品に仕込まれた多彩な楽曲構成やモチーフに仕込まれたフックや洋楽オマージュなどの特長を考慮すると、それよりは純化した歌謡曲のスタイルに近い気もします。

京都の固有名詞を冠したちょっと長めの題名。「先の大戦」と京都の人が言う場合、第二次世界大戦ではなく応仁の乱を指すならわしがあるそう。この冗談半分真実半分?の京都あるある小話が示すように、京都の街には尺度や旅情の圧倒的な広さ長さ深さがついてまわります。

そんな深淵な歴史と血脈をもつ京都の街の名前をあげ、そこへ行くことと自分を尊重することのどっちをとるのか? と詰め寄るあるいは懇願する主人公の態度が滑稽です。

じっとりとした歌謡曲の平凡な質感に埋没してしまわないみずみずしさは、ボーカリストの松井悦子(現:松崎悦子)さんの発声法がポップス唱法にとらわれない頭声風のクラシックっぽい発声法からなる表現であるのも一因でしょう。

楽曲のエンディングはルールルルル……と言葉にならないリードボーカルメロディが己の決着の宙吊りを労い浄化しなだめ、フェイド・アウトし結末をリスナーの胸にあるいは己の未だ来らぬ春のなかにパッキングしてしまいます。さて、あなたはそれでも京都へゆくの?

なのにあなたは京都へゆくの チェリッシュ 曲の名義、発表の概要

作詞:脇田なおみ、作曲:藤田哲朗。編曲:馬飼野俊一。チェリッシュシングル、アルバム『なのにあなたは京都へゆくの』(1971)に収録。

チェリッシュ なのにあなたは京都へゆくの(アルバム『なのにあなたは京都へゆくの』収録)を聴く

悦子さんのみずみずしい歌唱が際立つように、真ん中のスッキリとした音像です。彼女の歌声が青天井に自由に突き抜けるように、ベースはずうんと深い音色です。ドラムの16ビートのグルーヴが極めて精緻。抑制の効いた、サスティンの短い音色でボツボツドツドツとスネアの打面にスティックが衝突する質感がパックされています。

ウワモノの左右のきっぱりとしたマッピングが妙。左にハープシコードがいます。古楽器の音色は京都の深淵な歴史のレイヤーを表現するのにうってつけです。右にフルート、グロッケンが位置し、カチカチひゅるりと輝きとかろやかな流動性を演出します。抑制の効いた歯触りの軽いエレキギターの音色も右側定位です。このエレキギターはサビでダイナミクスが強まり、メリハリをもって16分割を強調します。

右側のチャリっと感とバランスをとるようにタンバリンは左側定位。深く存在感のあるエレキギターのリードはハープシコードと近い右側定位で、リードメロディをハープシコードと入れ替わるように受け渡しあいます。

ストリングスのダイナミクスの脇役にまわる引っ込み方が垂涎。かと思えばチェロパートと別れての対旋律が美味しい。

Aメロなどでの音の引き算が際立ちます。リードボーカル=主人公の孤独にスポットライトを投げる非常に精緻で美しい編曲がおぞましいほどに的確。歌謡曲のオケ伴奏様式美を感じます。手本にしましょう。

青沼詩郎

参考Wikipedia>なのにあなたは京都へゆくのチェリッシュ (歌手グループ)

参考歌詞サイト 歌ネット>なのにあなたは京都へゆくの

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『なのにあなたは京都へゆくの』を収録したチェリッシュのアルバム『なのにあなたは京都へゆくの』(1971)