まえがき
夏が終わる感傷がいかに表現者の創作テーマになるかが、近似したタイトルの曲のリリース数の多さから実感します。 サブスクで聴けない(この動画の収録時:2025年8月末時点)しオリジナルアルバムにも未収録のキャロルの『夏の終り』ですが、BEGIN、藤井フミヤさんなどにもカバーされており、時間を経ても普遍の魅力を放ちます。 キャロルは『ファンキー・モンキー・ベイビー』の威勢の良いイメージがある方も多いかもしれませんが、『夏の終り』は甘く儚く慈愛に満ちたフィールがあるので未鑑賞の方はキャロルのイメージをより幅広いものに刷新するチャンスかもしれません。 クランチギターのリード、ラテンパーカス、サスペンデッドシンバル、マラカス様態の振りもの楽器、サーフロックの系譜を想起させるスライドギターに降り注ぐ8分割のピアノ。2拍目裏の移勢を表現するベース。そしてリードボーカルのスウィートな歌唱の質感、Ⅰ、Ⅵm、Ⅱm、Ⅴのおきまり循環コード進行。万人にコミットするエンターテイメント音楽の要素に満ちた審美の容れ物に宿る、夏の終りの叙情に浸ってください。
夏の終り キャロル 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:矢沢永吉。キャロルのシングル(1974)。
キャロル 夏の終り(『キャロル20 ゴールデン・ヒッツ』CD収録)を聴く
サブスクにないので円盤等取り寄せてご鑑賞ください。 例の赤い動画サイトで検索する
スムースで肩の丸い感じのリードボーカルにウットリです。ベースはピック弾きでしょうか。歌いながら弾くプレイスタイルを想起させる、ボーカルと一体になったシンプルかつ旋律的な動きが慈愛に満ちています。左にアコギがちゃかちゃかと、そしてピアノも左。Ooh系のバックグラウンドボーカルが瑞々しい。ファルセットを含んでいるでしょうか。
右に振られた打楽器小物はイヤホンで聴いたときはマラカス類かと思ったのですが、ヘッドフォンで聴くとカバサにも聴こえます。なんなら「シッ!」と人間の口で出した歯擦音にすら聴こえる生命感があります。
この曲のなめらかさ、ジェントルなフィールは案外、スネアが除外されていることによるのかもしれないと思いました。リズム、ビートのアクセントはボンゴがもっぱら買って出ているためドラムで強いエッジを出すことは避けています。まるみのあるキックの音色の味わいが耳に優しい。
“ああ もう恋などしない 誰にもづげず ただ波の音だけ さみしく聞こえる”(『夏の終り』より、作詞:矢沢永吉)
閑静な環境を演出し、自然と心情に焦点が合うのにそっと寄り添う、主人公の胸の内を毛布で包むような調和したサウンドが歌詞と一体になってリスナーを小瓶にパックする。これを波にそっと放ってやろうか。それとも思いとどまってかばんにしまい、持って帰ってしまおうか。
青沼詩郎
『夏の終り』を収録した『キャロル20 ゴールデン・ヒッツ』(1974)