まえがき

風光明媚な景勝地を延々と行くような安定感あるビートと和声展開のもとつらつら・ひたひたとこぼされるような、燃え殻のような心情が寂しく哀愁めいて沁み入ります。明るく爽やかなサウンドがたまらなくセンチメンタルな心情のかげを際立たせます。アレンジは梁邦彦with Band名義。万人に普遍的な風情の夏の終りを描くポップソングは多いですが、浜田さん自身の写し身なのか、あるいはそれを前提・背景に創出した架空のロックンロールスターあるいはその予備軍なのか、主人公の孤高な境遇を情景とともに描き出します。

夏の終り 浜田省吾 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:浜田省吾。浜田省吾のアルバム『誰がために鐘は鳴る』(1990)に収録。コンピレーション『ROAD OUT “TRACKS”』(1996)に別バージョンを収録。

浜田省吾 夏の終り(アルバム『誰がために鐘は鳴る』収録)を聴く

すばらしい歌唱にときに冷たさを感じることがあります。井上陽水さんとか大滝詠一さんに感じることがありますね、たとえば。この曲の浜田省吾さんの歌唱にも通ずるものを覚えます。輪郭と質量の明瞭さと陰のコントラスト。さびしくて、孤独で、でもそれを拒んでもおらずむしろそちらへと積極的に赴いている、あるいは引き寄せられている主人公が「夏の終り」という主題の下(もと)、あるいは上に、あるいはその主題を背負って道の続くほうへと往く様子が映されます。道は数多の誰かが通ることでつくられ、認知できるものです。名もなき数多の孤独者たちがかつてここを通ったからこそここに道があるのです。孤独な人がたくさんいる。異なる時代に似たような軌跡を経過する人がたくさんいるのです。孤独はほんとうはあたたかい。孤独は、時空を超えた集団なのだと思います。

ドラムの表拍と裏拍のメリハリのあるハイハットが素晴らしい。ベースの、どっしりと安定した、それでいてときに小刻みなニュアンスも然り。こんこんとイントロやエンディングをリードするシンプルなピアノは必要十分。夕焼けに口笛吹くようなオルガンの音色。サビの折り返しでふわっと薫ってくる蛇腹楽器はアコーディオンでしょうか。エレキギターは左側定位でストラトキャスターのようなちゅるちゅるっとした輝かしい音色でバッキングし間奏ではボトルネックで雄大な稜線に日が沈むようにロマンチックな線を描きます。

バックグラウンドボーカルのレイヤーが精緻で審美的。ウーとかアーの母音、字ハモを使い分けます。エンディング付近のサビの折り返し、歌詞「残された わずかな時」のところではぱっとバックグラウンドボーカルはいなくなる。さびしさが際立ってキュンと来ます。

2コーラスで3〜4分で完結してもよいような構成ですが、ビートの雰囲気が変わりⅥmから入る間奏がつきフルート系の音色が交うのは主人公の回顧の表現でしょうか。そして最後のサビがつき、イントロ相似形のエンディングのフェードアウトがついて堂々の6分台。スケール感が大陸なんですよ。

青沼詩郎

参考Wikipedia>誰がために鐘は鳴る (アルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>夏の終り

浜田省吾 – Road&Sky groupへのリンク

『夏の終り』を収録した浜田省吾のアルバム『誰がために鐘は鳴る』(1990)

『夏の終り』のリメイクを収録した浜田省吾のアルバム『ROAD OUT “TRACKS”』(1996)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】虚ろな夢 夏の終り(浜田省吾の曲)ギター語りとハーモニカ』)