まえがき
音楽によって情感や感慨や心象をたくさんの人の胸に呼び起こすためには、歌詞のことば易しくある(平易である)必要がある、というのも一説として然るべきでしょう。そんな態度や方針をストイックなまでに、色っぽいと思えるほどにつきつめた一曲としてこの『夏の終りのハーモニー』を挙げても良いと思います。 ストリングスの単音の保続、シンセのアルペジオリフ、サスペンデッドシンバル(シンバルのトレモロクレッシェンド)、井上陽水さんの永久欠番『少年時代』を思い起こさせるようなピアノの4分打ち……これはもう「勝った……(あんたの勝ちだ!)」と思える完璧な導入。あとはもう野となれ山となれ。 驚異の3枚組(CD2枚組)オリジナルアルバム『安全地帯Ⅴ』収録曲。「夏の終り」は通年、あなたの胸に。
夏の終りのハーモニー 井上陽水・安全地帯 曲の名義、発表の概要
作詞:井上陽水、作曲:玉置浩二。井上陽水&安全地帯のシングル(1986)。安全地帯のアルバム『安全地帯Ⅴ』(1986)に収録。
井上陽水・安全地帯 夏の終りのハーモニー(安全地帯『ALL TIME BEST』収録)を聴く
地球の夜に終りを告げるみたいな重く荘厳で、なおかつたったいま生まれたみたいな純白な歌、サウンド。自然に涙が滲みます。
お二人の歌唱の機微がすごすぎる。サビで下のパートに回っているときの玉置さんのソフトエッジボイス。上のパートでいつものあの井上さんらしいつやめき・照り・輝きにピタリと完全に調和して地平線、地球の球形の輪郭みたいな審美な線を描くお二人の歌唱。ソフトエッジボイスで3度などの調和音程する、かとおもえばサイドのサビ折り返し前のサビでおもむろにユニゾンで同一音程のダブル。
シンセのサウンドはなんだかプラネタリウムの客席に沈み込んで没入している気分になります。シンセだけじゃない、重壮なストリングスのサウンドの迫力たるや。低域の臨場感が特にいいですね。チェロバスの音域。ホルンなども重なっているのかな。地球の自転を想起させるんですよ。宇宙にふわふわただよってたった一人で自然の摂理に慄いているスリルと感動。俯瞰と主観の入り混じる絶頂。
コーラスがかって輪郭から鱗粉がこぼれおちそうなリードトーンのソロギター。フィルインでタムのピッチが高いのが薫るナイス。
たったいま終る夏と永久に繰り返す夏が重ね合わせになって、夜と朝を繰り返すミルフィーユ。
青沼詩郎
参考Wikipedia>夏の終りのハーモニー/俺はシャウト!
『夏の終りのハーモニー』を収録したアルバム『安全地帯Ⅴ』(1986)。サブスク配信未確認作品です(2025年8月下旬、この記事の執筆時点)。円盤でぜひ。
『夏の終りのハーモニー』を収録した安全地帯の『ALL TIME BEST』(2017)