キズつけて“あげるよ”
スピッツのシングル『青い車』のカップリングとして発表され、B面集的なアルバム『花鳥風月』に収録されました。
「猫になりたい 言葉ははかない 消えないようにキズつけてあげるよ」相手に恩恵を与えるときに用いるのが通常の傾向だと思われる「〜してあげる」という言葉使いを、「キズつける」という表現にかけて用いるところが非常にスピッツ曲らしいフックだなと思わせると同時に、一見害悪やハンディの象徴だと思えそうなモチーフ「キズ」も、実は未来のためになる何かしらの種苗であり恩恵の芽なのだという半歩〜数歩先の悟らせなのかもしれないとも思えて妙味です。
編曲は『青い車』『空も飛べるはず』などと同様の位置付けができそうな、土方隆行&スピッツ名義になっています。ある時期のスピッツサウンドの中央値的、ともいえそうなバランス感です。「猫」というモチーフ:主題の深読みもすればするほど面白いでしょう。
猫になりたい スピッツ 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:草野正宗。スピッツのシングル『青い車』(1994)、アルバム『花鳥風月』(1999)に収録。
スピッツ 猫になりたい(アルバム『花鳥風月』収録)を聴く
まっすぐでおちつきのあるエイトビートのオケ。ポンポン……とエレキギターのおさえたストロークはブリッジミュートでしょうか。アルペジオのギターもやわらかく漂います。ギターソロのリードトーンはレスポールのハムバッカーのコイルにしか出せないようなじくじく・じんわりとした太く甘く増幅したサウンドが耳あたりやわらかです。
ボーカルは単一の線でハーモニーやダブルがありません。猫の、群れない性格をおもわせます。思い出のなかをさまようみたいに残響のタイム感が非常に長く、ふわふわとした感覚をくれます。メロの歌い方と、サビに入ったときにふくよかに雄弁に輝きを増す歌唱の表情の変化がすばらしいです。
ドラムのサウンドが耳を引くのはスネアのスコンと抜け感とサスティン感のバランス。理想かよというくらい心地よいドラムサウンド。タムは多様なピッチがしっかりと張り詰めたテンション感で響くスピッツらしいサウンドです。左のほうに定位が寄った、チャイナ系なのかエフェクト系のシンバルがばしゃーんと炸裂します。豊かなドラムのサウンドは私に「スピッツらしさ」を思わせる標榜のひとつになっていることをしみじみ実感します。
豊かなサウンドを素朴にささえ、ボーカルによりそい切るベースがプレーンです。ボーカルが空ならベースは地面。この垂直方向の空間を、ギターやドラムの中に含まれるウワモノが水平方向に広げるのです。
猫を私は飼ったことがないので解像度が低いですが、その気ままさ、ひとりになったりあまえたり気を荒げたりの振れ幅に「お前はいいなぁ」「(おれもおまえみたいになりたいなぁ)」なんて思う、猫へのあこがれは普遍なのかもしれません。
小物づかいの話ですが、歌詞に「霊園」がハマっているのがすごいと思います。歌のことば:歌詞において「霊園」が出てくる私が知るのはこれただ1曲です。
生まれる、死ぬ、くう、ねる、まじわるといった生き物の普遍ですが、どうも闇のほうにうまく光をヨコから当てるような感性がスピッツはうまい、というか天才なのだと思います。冷やっこさ、冷感があるんですよ。霊感かな?
青沼詩郎
参考Wikipedia>青い車 (曲)、花鳥風月 (スピッツのアルバム)
『猫になりたい』を収録したスピッツのアルバム『花鳥風月』(1999)。『花鳥風月+』(2021)と改められ、インディーズ時代の曲が加えられたバージョンが聴けます。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】キズつけて“あげるよ”『猫になりたい(スピッツの曲)』ギター弾き語り』)