練馬美人 KAN 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲・編曲:KAN。KANのシングル『東京に来い』(1995)に収録。

KAN 練馬美人を聴く

(イメージモノラルミクス)」とシングル盤にクレジットされているようで、定位の広がりがありません。

定位の有無以前に、なんとシンプルな編成なことでしょう。基本、スリーピースバンドですね。ギターボーカルに、ドラマーとベーシストがコーラスに加われば声のハーモニーを含めほぼライブ演奏で再現できそうです。

間奏ばかりはギターをダブリングしてあります。間奏の前半はドラムソロが目立ちますが即興的なフレーズではなく決めたパターンを裸にする感じのドラムソロです。そのままアディショナルギターがだんだん自由に動き出す感じですが、サスティンの強い歪んだサウンドで高音域を貫きまわす、というようなギターソロではなく、響きとリズムを重視した束の間のリードギターです。

ともかく、ほとんどが三人のメンバーがステージでトリオでギターロックをやっている様相なのです。音数がシンプルなのでモノラルでも音がごちゃつきません。そもそもステレオにしさえすれば音が複雑でもごちゃつかないなんて道理はありません。編曲が良ければよいのです。

引き算の編曲といっていいのか、足し算を最小限にした編曲というべきなのか。どちらかといえば後者でしょう。三人で、ギターとベースギターとスティックをもってバンと鳴らして恋を歌う。ビートルズ(は四人ですが)感ありますね。声のハーモニーやダブルで彩をだす手法もビートルズっぽいです。

歌の内容の設定がいかにもKANさんらしくて、ツッコミを誘います。でもそもそもこの曲の魂柱自体が、練馬美人に対するKANさん(という仮想上の主人公)目線によるツッコミなのです。

主人公は一体どれだけ都会住みなのでしょう。練馬ですらこの田舎扱いです。練馬のさらに西どなり、アウト・オブ23区の西東京に住む私が西東京美人だったらもしもの楽曲『西東京美人』はどうなっていたのか。4時間つかえる筈が、正味2時間のデート・タイムは西東京美人だったらさらに……正味1時間40分くらいかな? 長めの映画はもう見られませんね。そもそも1時間40分だろうと2時間だろうとドングリの背比べです。食事してせいぜいですね。

門限がちゃんとあって、キビしい練馬美人。練馬を擁する西武線沿線には武蔵野音楽大学の江古田と仏子のキャンパスとか、日大芸術学部とか、池袋の東京音楽大学へのアクセスとか、もろもろ芸術系や音楽系のお嬢さんが住んでそうな要素がいくらかありうるでしょう。音大生向けのマンションなんてのも練馬付近には多数確認できるのではないでしょうか、探せば。門限があるというとご実家かもしれませんから、音大生向けの独居マンションとは違うかもしれません。学生寮だったりして? それもちょっと違うかな。ないとも言い切れませんが。

「練馬イヤイヤ美人」みたいに聴こえうる響きを備えたサビです。ヤーヤーヤー。ビートルズじゃないですか。練馬、イヤーイヤーイヤーヤーヤーヤヤーヤー。美人! 「イヤイヤ美人」。なんかおかしみがあります。違うか。ヤーヤーヤーだっつの、「イヤイヤイヤ」じゃなくて。

実はずっと前から好きだったみたいですし、主人公の本気度は、4時間を正味2時間にしてしまう程度の距離じゃへこたれません。いつか自分をあなたと呼ばせてみせる日を迎えるべく付き合う根気も感じます。

もし音大生ならピアノが少し弾けるのではなく盛大に弾けるのでは? というツッコミが聞こえてきそうですが、ピアノ科じゃなくて弦や管楽器専攻の練馬美人であれば、たとえばピアノが少し弾けて、ヴァイオリンが盛大に弾ける美人である、なんて可能性が残ります。副科としてだいたいみんなピアノは学ぶのです。ちなみに、音の出し方や楽器の特性のせいなのか、打楽器専攻の学生には副科ピアノでも盛大にピアノがうまい学生が結構いたりします。美人が多いかはわかりません(何様)。なんの雑学か。

ツッコませるのに、ツッコんでいる。KANさんらしい、細かいのに細かいことはまぁいいじゃないか!という愛嬌とジョークセンスを感じる妙作で、シングル曲『東京に来い』CDのカップリングが『練馬美人』です。『東京に来い』と来て、住む場所はどこか? とくれば練馬(美人)ですと。妙にリアルでしょ。住むによし、通うによしなんですよ、練馬は。都内へのアクセスと住み良さのバランスが良いんです。あ、西東京もそこはほぼ一緒ですよ(西東京市民の見栄)。

八方美人と練馬美人

暑さで朦朧とした頭を一度休めてふと思い当たるのは「八方美人」という言葉。どちら方面にでもいい顔をする、誰にでもいい顔をすることの慣用句です。もうちょっと独自の解釈を深めてみると、誰でも贔屓にする、誰でも立ててあげようと尊重するのが八方美人でしょう。立ててあげる、尊重するというよりは見栄っぽくて「自分をよく見せようとする」「カッコつけようとする」というニュアンスかもしれません。

このニュアンスを楽曲『練馬美人』の設定にインストールすると、つまり練馬贔屓、練馬を尊重している僕、練馬にいる君に対してカッコつけたい僕! という解釈が可能になります。つまり、練馬にいる「君」のことを好きで好きで仕方ない主人公こそが、真の練馬美人なのですね。なるほどそういうことか……KANさんのウィットは流石ですし、やっぱり愛嬌が深いです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>東京に来い

KAN 公式サイトへのリンク

参考歌詞サイト 歌ネット>練馬美人

『練馬美人』を収録したKANのシングル『東京に来い』(1995)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『練馬美人(KANの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)