入れ子ロールプレイの洒落っ気

テレビドラマ『ムー』(1977.5.18~11.9)の登場人物、宇崎拓郎(演:郷ひろみ)、金田久美子(演:樹木希林)としてパフォーマンスされます。『ムー』は東京・新富(中央区)の足袋屋“うさぎや”を舞台としたホームコメディ。主人とおかみさんを演じるのが伊東四朗さん、渡辺美佐子さん。郷さん演じる拓郎は一家の次男で浪人(代ゼミ)生。樹木さん演じる金田(かねた)は“うさぎや”のお手伝いさん。劇中、二人は仲が良いそうで楽曲をその息の合った雰囲気が横断しています。

作詞が阿木燿子さん、作曲が宇崎竜童さんで編曲が萩田光雄さん。“お化け”の設定を活かした洒落っ気やボケを含ませた歌詞をⅠ、Ⅳ、Ⅴを基調にしたシンプルなコード進行とメロディ、楽節(セクション)にフィットさせ、華やかなブラス、シンセやワウギターで表現した珍妙なサウンドでエンターテイメント(娯楽)の質量豊かに表現。

華のある若くてはつらつとした郷さんのボーカルに、樹木さんのリアルなお手伝いさん(一般の人)じみた素朴すぎるまっすぐな声色のボーカルがオクターブユニゾンするおかしみ。「イヒッイヒッ」…のあやしい含みのある笑いがコミカルさで音楽的な完成度をさらに表層から覆う絶大な印象を残します。

オープニングとエンディングはドラマの役柄としてのせりふ(発言、かけあい)で綴じられ。あくまでドラマのなかの戯れのワンシーンとして(?)フレーミングされます。

本編の設定としては拓郎(演:郷ひろみ)が“お化け”であるわけではなさそうなので、あくまで劇中でのこの場限りのロールプレイ(ごっこ遊び)の趣向なのかなと察します。劇中でごっこ遊びをしたら、まるでお芝居のマトリョーシカ(入れ子)ですね。ちなみに『林檎殺人事件』(1978)は『ムー』続編の『ムー一族』(1978~1979)のコント挿入歌です。

ちなみに『ムー』のタイトルは幻の大陸“ムー”に由来するそうです。かつて存在し、水没したとされるムー大陸の存在は学術的に否定されているそう。オカルト雑誌として有名な“ムー”とは無関係だそうです。東京・新富の足袋屋のホームコメディのタイトルが『ムー』とは、今の私には良く分からずピンと来ません。良くも悪くも雑多で適当、という趣向でしょうか。

お化けのロック 郷ひろみ&樹木希林 曲の名義、発表の概要

作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童。郷ひろみのシングル『帰郷/お化けのロック』、アルバム『ピラミッドひろみっど』(1977)に収録。テレビドラマ『ムー』(1977.5.18~11.9)挿入歌。

お化けのロック 郷ひろみ&樹木希林

ふたりのオクターブユニゾン。樹木さんの声がなんだか郷さんの背後についてまわるお化けっぽいのですが、いちおうこの歌の主人公はひとりでお茶を飲みにくるアノコに恋する男子のオバケなのかなと思うのでオバケ役(?)は郷さんのはずです。お化けにお化けが憑いている……みたいな構図ですね……だんだん色々と麻痺してきたぞ……

ロックンロールスタイルは大衆歌に非常によく好んで持ちられる音楽コスプレです。「〜ブギ」だとかも多いですね。その音楽スタイルの正統をずばりトレースする必要もありません。フンイキくらいで十分なのです。「お化け」ですしね……

しかし右側に定位した、ガバガバっとした音色の薄っぺら目なペケペケしたロックンロールスタイルのエレキギターの音色がオールドスタイルなロックンロールっぽい音色していていい感じです。

シンセのチミチミした存在感の強い音色はお化けにしては主張しすぎでおかしみ。このお化けは目立ちたがりなようです。ワウを効かせたエレキギターは珍妙さを強調していていい塩梅です。

右側に定位したブラスは華やかでホット、こちらもお化けであることを忘れているかの如く熱く存在感があります。

左側いっぱいにピアノが定位していて、まっしぐらなロックのビート感とコードを担います。ブリッジ「足を踏むのは誰だ……」や「声をかけてもダメさ」のところでピアノの音色が中央定位に移動します。サウンドの様相が変わるのです。ミックス上の手技としてシーンやセクション分けの演出への意欲が高い。この箇所のピアノはホンキートンクピアノじみて感じるくらい音色のキャラクターが違って感じます。

樹木希林さんのボーカルがたまにリズムが甘いところがあり、なんだか猪突猛進な郷さんが演じるお化けに振り回されているようなおかしみがあります。イヒッイヒッといった頭のネジがはずれたみたいな笑いのインパクトが強烈。「メロディ」を超越した表現はときにメロディ、歌の本体以上の存在感を発揮する好例です。でもこのイヒッ……にも当然音程は存在するわけで、やっぱり音楽的に声の高さとか声色がばっちりハマってコミカルソングとして堂々たる完成度に至っているように思えます。

お化けという存在ってこうだよね、とお化け像をネタにあれこれ想像をふくらませエンターテイメント。大人も子供楽しめそうに思えますがどうでしょう。

青沼詩郎

参考Wikipedia>帰郷/お化けのロックピラミッドひろみっどムー (テレビドラマ)

参考歌詞サイト 歌ネット>お化けのロック

郷ひろみ SPECIAL WEBSITEへのリンク

『お化けのロック』を収録した郷ひろみのアルバム『ピラミッドひろみっど』(1977)